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□千日紅を抱いて
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深夜、もう誰もが眠りについている歌舞伎町をその身体に冷たい月の光を浴びながら歩く一つの影。
ゆらりゆらりと揺れるは、白く吐き出された紫煙。深く網笠を被り、ひらりと女物のような派手な着流しが風に靡く。
今日、最も過激で危険と指名手配されている過激派攘夷志士、高杉晋助はゆったりとした足取りで万事屋へと赴いていた。
手の風呂敷には酒と甘味。
以前、銀時が旨いと絶賛していたもの。きっとこの中身を見せたらあの死んだ魚のような瞳もきらきらと輝くのだろうな、と一人考えて口元を緩める。
こんな所をもしも、誰かに見られたら(例えば、高杉を慕っている部下だったり、高杉を捕まえようと奔走している真選組だったり)きっと卒倒するだろう。
しかし、今は誰もが眠りについた深夜。高杉の姿を見るものは誰も居やしない。
(急ぐか……)
きっと一人、従業員である子どもたちがいない万事屋で待っているであろう男の姿を思い浮かべながら、ゆったりとした足取りを速く高杉は進めた。
「帰れ」
開口一番に言われたのがまさかの帰還を促す言葉。しかも、命令形である。
これには高杉もひくりと頬を引きつらせる。
「んだァ?今日、来るって伝えてたろうが」
「いや…それは、そうなんですけどね?ちょぉっと、事情が変わったつうか、変わされたっつうか……」
ごにょごにょとしどろもどろになりながら、口を開く銀時に高杉は訝しげに眉を顰める。
(…なんか、コイツ小さくなってねぇか?)
暗くてはっきりとは分からないが、玄関から覗かせる紅い瞳と目線がほとんど変わらない気がする。いや若干、銀時の方が低い。
戸を押さえる手もゴツゴツとした男の手ではなく、女のような細い指。声も少しばかし高くなっている。
「とにかく、今日は帰れって!!」
そういって銀時は勢いよく戸を閉めるが、それを許す高杉ではない。素早く玄関の僅かな隙間に脚を割り込ませ戸を開く。
「あぁあぁああ!!ちょっおま…!」
「…なんだ、その身体…」
高杉は銀時の姿を視界にいれ目を丸くする。
高杉よりも低くなった背丈。肩よりも少し長い銀色の髪。女にしかない胸の膨らみ。
銀時は女になっていた。
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