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□一、これは、秘密のお話です
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『拝啓

宛てることのない君へ


手紙なんてあまり書いたこともないから、きっと文章なんて呼べるようなものではないかと思います。といっても、この手紙は君に渡すつもりなんてこれっぽっちもないから意味はないですね。

だから、これはただの自己満足。

君に本当のことを言えなかったことの謝罪と自分の中にある君との大切な思い出を書き綴っていきたいと思います。










* * * * *




短い始まりの言葉。
これを読むとなる程、確かにこの手紙を書いた人物はあまり手紙を書いたことがないのだろう、と想像がついた。ちらりと無造作に置かれた紙の束に視線を向ける。全部で今手に持っているものも合わせて6枚。一気に読んでしまっても良かったが、これはゆっくり読んでいこうと、1日で本を読んでしまう自分には珍しいことを思った。

束に向けていた視線を時計に向け時間を確かめる。もうすぐ、バイトの時間だ。遅れたら先輩に怒られてしまう。そう考えて準備に取りかかる。その際に手紙が折れないよう、これが挿んであった本に戻すことを忘れずに。

どこの誰が、一体誰に宛てたのかも分からない手紙。自分の元に来たのが、何か意味があるのだと少し馬鹿な夢を見て、一枚目の手紙の最後に書かれていた言葉を思い出し扉を開けた。





『これは、秘密のお話です』





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