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□二、あなたと出逢ったのは
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自分があの手紙を手に入れたのは、偶然だった。いや、この世には偶然ではなく必然だけだとどこかの女店主が言っていたような気もするが、まあそこはいいだろう。偶然ではなく必然だろうと、そんなものは関係ない。

行きつけの古本屋に行った時のことだった。随分と古びた外装に中は薄暗く、初めて訪れる人には少々ハードルが高いような店。しかし、それに反して品揃えは他の古本屋の中でも群を抜いていてお気に入りの店だった。いつものように顔馴染みの店主に軽い挨拶を交わしてから店内を見て回る。大体、新しく仕入れた古本は奥の籠にタワーのように重ねられている。初めこそこの置き方はどうなのか、と思ったが店主は頑なに止めようとしなかった。自分も今では気にしないようにしている。

それは古本のタワーの一番上に置かれていた。不思議と気になって手に取った。日に焼けた茶色い紙。随分と年期にが入ってるなと感じた。ただ、それだけなのにそのままにはしておけなくて、本の内容も碌に確かめず自然と会計に足が向いた。




* * * * *




『君と出逢ったのは、自分が通っていた図書館でした。

普段ものぐさな男だと定評のある自分でしたから親しい人でさえ自分が本を好きなことに驚いていた頃。どうしても読みたい本があって、足早に図書館へと向かってけれど探してもどうしても見つからず途方に暮れていた時、声をかけてきたのがきっかけでした。






某月某日 とある図書館にて



「……これか?」

「え、」


ぶっきらぼうにそう言って渡されたのは、ついさっきまで自分が必死に探していた本。思わず口を開けて呆然としてしまう。そんな自分の様子に眉を顰め相手は再び口を開く。


「違ェのか?」

「え!?あ!いやいや!これ!これです!!」


慌てて本を手に取り訂正する。そんな自分の様子に満足したのか「そうか」と呟くとそのまま背を向けて行ってしまう。引き留めようとして慌てて手を伸ばした。お礼をちゃんと言えていない。


「あ!ちょっ、待っ…」

「…なんだ」

「あ、ありがとうな」

「いや、俺がずっと借りてたからなァ。返すのが遅くなった」

「お前もこれ好きなのか…?」

「それっつぅか、それを書いた作者が好きなんだよ」

「マジでか!この作者って結構マイナーだから知ってる奴いなくて!うっわ…初めてだ!嬉しすぎ…って、あ…」

「…………」

「わ、悪い……」

「…くっ…」

「え、」

「くくくくっ…ふっは…」

「え、ちょっ!笑うなよ!」


かぁっと顔が熱くなるのを感じて男に声を荒げる。といっても、ここは図書館だからちゃんと抑えはしたけど。一通り笑うと悪い悪いと男は謝ってきた。そうしてふうと息を吐くとスッとこちらを真っ直ぐ見つめてきて、何故だかドクリと心臓が跳ねた。酷く整った顔と鉄色の瞳が視界に写り込む。


「お前、名前は?」

「え?」

「だから名前だよ、名前」

「ひ、人に名前聞くときは、まず先に名乗るってのが普通じゃねえのか」


先ほどからずっと馬鹿にされているようで、せめてもの仕返しにと言い返してやった。けれど男はそれすらも面白そうに口元を歪め口を開いた。


「高杉晋助だ」

「…坂田、銀時」







『これが、君との出逢いでした。

あとで知ったことですが、自分はあの時初めて君を知りました。けれど君はそのずっと前から自分のことを知っていたらしいですね。前にヅラにこっそり教えてもらいました。その事実がとても嬉しかったことは秘密です。普段はあんなにも俺様で余裕そうなのにと考えただけで笑えてきました。






* * * * *




二枚目の手紙を読み終わりすっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干す。あぁ、美味しくない。せっかく、バイト先の先輩オススメの物だったのに。
そう考えながらもう一度手紙に視線を落とす。ここまで読んできてこの手紙の書き手について分かったことは、本が好きな男だということ。さらに言えばどうやらここに宛てている主も男。


(…樹姉ちゃんが喜びそうだな)


ふと実家のご近所のお姉さんを思い出す。あの人のおかげで(果たしてこれが役にたつことがあるのか甚だ疑問だったが)そういうものに対して偏見はない。


「……どういう人だったんだろうな」


小さく呟いてこの書き手の男を想像する。ここに書いてある『ヅラ』という単語にほんの少しの既視感を持って。





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