gift

□11時59分のクリスマス
1ページ/1ページ

現代パロ




約束をしていたわけではなかった。

付き合ってはいるけれど、それは本当に淡白なもので。付き合う前の親友だった関係にキスや体を重ねるという行為がプラスされたようなものだった。デートといっても適当に店を回って、時々、自分が甘党であるからカフェによってケーキを食べたり(まあ、相手は甘いものが余り得意ではないため、いつも苦いコーヒーを飲むだけだったが)映画を観たり。他の友人と過ごす休日と変わらなかった。しかも、お互いバイトをしていて時間もなかなか合わないことが多い。今日だって…


「…ってなぁに、女々しいこと考えてんだろうね。俺ぁ」


ハァと息を吐けば寒さで白く目に見え、愛用している赤いマフラーを鼻の先まで持ち上げる。冬の寒さで体が凍えそうだ。雪も積もり昼の日差しで溶け出して凍ってしまった道を転ばないように慎重に足を進める。ガサリとつい先ほど買ってきたケーキの入った袋が音を立て、慌てて形を崩さぬよう底が地面と平行になるよう持ち直した。

一人のクリスマス・イヴ

なんと寂しいフレーズだろうか。世の多くのモテない男共が涙を流し歯軋りをしながら一人、チキンに食らいつく場面が思い浮かぶ。そうして、来年こそはと決意を新たにするのだ。ふと、今年こそ想い人とクリスマス・イヴを過ごしてみせる、と息巻いていたゴリラ似の知人を思い出す。毎年のように息巻いては手酷く断られ、そうして決まって男を慕う馴染みの青年二人に慰められながら酒を飲むのだ。きっと、今年も例年と変わらないのだろう。そんなことを考えていれば自然と口元が緩み可笑しな気分になる。断られてもけしてクリスマスを一人で過ごさない男が少し羨ましかった。自分なんてちゃんと、共に過ごせる相手がいるのにクリスマスは一人で過ごす。

元から相手がいなくて一人で過ごす人間と、相手がいるにも関わらず一人で過ごす人間ではどちらが哀れなのか。


(結局、寂しいことに違いわねぇんだろうなぁ)


部屋の鍵を取り出しながら思う。だったら、その寂しさを紛らわせるくらい今日は一人可笑しく過ごしてやろうではないか。部屋に入り冷たい廊下を足早に進んで、買ってきたばかりのケーキをテーブルに置き、冷蔵庫から適当に酒と作り置きしていたつまみを取り出す。

さあ、一人きりのクリスマスだ。




* * * * * *




いったい何時になっただろうか。クリスマスの特番から視線を離し、携帯を開く。11時53分。あと7分でイヴは終わりだ。酒やつまみばかりで全く手に着けてなかったケーキに手を伸ばす。クリスマスの華やかなケーキなんかではなく、シンプルなベイクドチーズケーキ。本当だったら生クリームがたっぷり使われ、苺やチョコレートで彩られた甘い甘いケーキにしたかったのだが、もしかしたら、という考えが捨てれなかったのだ。甘いものがあまり得意ではないあの男のためにと、甘さ控えめのチーズケーキを。結局、無意味になってしまったが。ふっと自嘲し、食べるためにフォークを取ろうと腰を上げた。その時、ピンポーンと無機質な呼び鈴が部屋に響いた。


「え……」


まさか。
そう思い、早足に玄関へ向かい扉を開いた。
11時57分


「…遅ぇ」


低い耳慣れた声が文句を零す。驚きの余りポカンと口を開き固まってしまった自分は、どれだけ滑稽だろう。


「何、阿呆面してんだ。馬鹿」


ハッと鼻で笑うも、そんな男の鼻や頬も真っ赤になっていてなかなか笑える。

11時58分


「おら、寒ぃんだよ。さっさと中入れろ」


そうして、図々しくものを言い部屋へと一歩踏み入れる。ガサリと、よく見たら男の手にはあのチーズケーキを買った同じ店の袋が。そして、あぁと何かを思い出したかのように言葉を漏らし鉄色の瞳を合わせ口を開いた。

11時59分

「メリークリスマス」


間に合っただろ?と言わんばかりに男が笑って、やっと自分も笑った。





11時59分のクリスマス
(自分が食べたかった甘い甘いケーキを手に、彼はやってきた)




***********
間に合ったアアアアア!!
高銀メリークリスマス!イチャイチャこの後の性夜も楽しむがいいさ!←

皆様、メリークリスマス!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ