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□心配して損した!
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桜が満開になり、すっかり春の陽気へと変わった江戸の町。
江戸から程近い山には春が旬である筍が土から顔を出し、すくすくと育っている。
万事屋では今日も依頼はなし。前の依頼からの貯金も既に底を尽きそうである。店主である銀時は朝からふらりと出かけていて何処に行ったのやら行方はわからない。
特に何をするでもなく暇を持て余していた神楽と新八だった。
そんな二人を見兼ねたお登勢は自分の代わりに筍を掘ってきてくれと頼んだ。
なんでも、お登勢の店の常連で江戸から近い山の竹やぶを所有している人物が居るとか。どれだけご都合主義なのだとつっこみはあるかもしれないが、そこは大目に見て欲しい。
話は少々逸れてしまったが、今年もお世話になろうと思っていたお登勢だったが生憎店の仕入れやらなんやらで忙しいらしく、代わりに行ってくれと二人に託したのだ。
暇を持て余していた神楽と新八は二つ返事で了承し、意気揚々と出かけて行ったのが約三時間前。
そして現在。電車を降り、山へついたのだが、そこには予想外な光景が広がっていた。
「いいかぁ!相手はあの鬼兵隊だ!気合入れていけ!!今度こそ何としてでも鬼兵隊を取り押さえるんだ!!」
『はい!!』
「一番隊と三番隊はあちらへ、二番隊と四番隊は裏から回れ!五番隊以下は俺と来い!正面から行く。」
『はい!』
見知った顔がわらわらと山の入り口を囲っていた。
鬼兵隊との言葉が耳に入れば、新八と神楽は状況は飲み込めないにしても来てはいけないところに来てしまった、と体が強張る。
山の中からは姿が見えないまでもぴりぴりとした空気が漂っていた。
まさに一触即発。そんな時だった。
ざぁ、と木々を揺らしながら突風が吹いた。
この風には流石の真選組も目を瞑らざるを得なかったようだ。全ての人間の動きが止まった。
勿論新八と神楽もだ。
そして、次に目を開けた時。そこに先ほどまでの光景はなかった。
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「…どこだ、ここ…」
そう呟いたのは誰だっただろうか。
気付いた時には知らない所。
灰色の空からはバケツをひっくり返したような雨が降っている。
だが、その雨は体を濡らすことなく、まるで映画のワンシーンを見ているかのような錯覚に陥る。
目の前には、まるで戦後のような光景。
さっきまでそこかしこが燃えていただろう木々からは雨により火が消えたのか煙が立ち昇っている。
人と天人の死体が入り混じり、中には人なのか天人なのか見ただけで判別できぬモノも多い。
「……酷い、アル…」
「ここは……?」
新八と神楽の声が響く。
二人の声に、周りに居た者達は二人に注目し、そして周りを見て、各々が驚きの声を上げるのだ。
「な、なんでお前達が居るんすか!」
「それはこっちの台詞でぃ。つーか、ここが何処だか知ってるんですかぃ?」
「知るわけないでござろう。先ほどまで居た山とは違う、と言うのは確かだろうが…」
「まぁ、周りを見るからに…これは攘夷戦争の時の光景に似ていますが…。どうしてこんな所に居るのかは…」
「……最悪の面子だな…」
「それはこっちの台詞っス!!」
「お?新八君にチャイナさんじゃないか!君たちも居たのか!」
土方の言葉に噛み付く勢いで返す鬼島を武市がまぁまぁと宥めつつ、どこか落ち着いた様子の河上と沖田は再び周りを見渡す。
近藤は新八と神楽に向かって話しかける。
出来ればそっとしておいて欲しかった、と新八は顔を引きつらせる。
とんでもない面子の中で、不可思議な出来事が起きて、新八の許容量は軽くオーバーしている。
神楽を見つけた鬼島が神楽へと噛み付こうとしたが、それを河上に止められる。
「なんすか、万斉先輩!」
「……落ち着くでござる、鬼島。…可笑しいとは思わないか?こんなに雨が降っているのに、拙者等は少しも濡れてない…」
「それだけじゃありませんぜ。…さっきからそこら辺に転がってる仏さんに触ることもできやせん。」
河上と沖田の言葉に、そこで初めて気付いた土方は試しに近くに転がっていた木の枝を持ち上げようとするが、スッとすり抜けてしまった。
これには鬼島や近藤も驚き、改めて現状を確認しようと敵だ味方だ関係なく固まって話始める。
始めようと、した。
神楽が、視界に白い影のようなものを見た事によりそれはかなわなかったが。
「…銀ちゃん…?」
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