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□始まりは唐突に
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「銀時、晋助。私は旅に出てきます」
「「は……?」」
目の前の自分の養父は、いきなり何を言っているのだろう。
何の前触れもなく突拍子もないことを言うのはいつものことだから、今日、幼なじみの高杉を家に呼べと言われた時もそんなに考えず対応したがこれは流石に度が過ぎではなかろうか。
「……先生、一体何を…」
いち早く我を取り戻した高杉が戸惑いながら口を開く。あぁ、なんだかこの男が戸惑っているだなんて笑えるな、と頭の隅で考える。
「前々から考えていたのですよ。私は小説家という職について、いつも家に籠もりっぱなしでしたからねえ。もっと色んな世界を見てみたい。そして、それを文章に生かして書き起こしたい」
きらきらとまるで子どものように瞳を輝かせる先生は生き生きとしていて。
これは、引き止めても無駄だなと嘆息する。仮に引き止めたとしてもきっとこの人は、言うことを聞かないだろう。昔から、これと決めたものは最後まで突き通す人だったから。
「ちなみに、いつから行く予定なの…」
「明日です」
「明日ぁ!!?」
「はい」
にこにこと笑いながら答える養父に思わず頭を抱える。
「また、急な……」
「すみませんねえ」
いやいやその顔はまったく、申し訳なく思っていませんよね。そうですよね。確信犯ですよね。
「それで、先生。俺を呼んだ理由は…」
高杉が疑問を口にする。確かにこの事を報告するだけならもう一人の幼なじみで先生とも交流のあるヅラも呼ぶだろう。
しかし、あえて高杉だけを呼んだ意図が分からない。
「あぁ、そのことですね」
今、気がついたと言わんばかりに手をぽんっと叩く。この調子で本当に旅になんぞ行けるのか、酷く不安だ。
「晋助あなた、今度から一人暮らしを始めますよね」
「はい」
高杉の家は母子家庭で高杉と母親の二人暮らしだったが、あまり家にはおらず高杉に生活費を渡してすぐに仕事へ行くということの繰り返しだった。口もここ数年は聞いていないらしい。
そんな母親が好きではなかった高杉は高校が決まったら家を出て行くと決めていた。学費は母親に頼ることになるが生活費だけは自分で稼ぐと言っていた。
「そこで晋助。明日からここで暮らして下さい」
「え、」
「いくら生活費を稼ぐといっても、高校生は勉学も大切です」
ちょうど私も出て行きますしね、と続ける先生の顔は実に穏やかだ。
「銀時だって晋助なら構わないでしょう?」
「え、あぁ、うん」
情けなくも片恋相手と一緒に暮らせるということに胸を高鳴らせている自分がいた。
(これは、やばい…)
「どうでしょう?」
「どうでしょう、と言われましても…やはりここで暮らすにも家賃を…」
「あぁ、それなら構いませんよ」
実はここに住むのは、あなただけではないのです。
「なにそれ、どういうこと?」
自分と高杉だけではない?
「神威くんと神楽ちゃんですよ。知っているでしょう?」
「神威と、」
「神楽ぁ?」
知っているも何も、ある意味高杉やヅラとは少し違う幼なじみのようなものだ。昔から何かあれば遊び相手になったり、二人の父親である星海坊主の代わりに行事などにも参加した。
「星海坊主さんも本格的に中国で武道家として活動してきましてね。最初は、二人も中国へ連れて行こうとしたらしいんですけど神楽ちゃんがね」
今の友達と離れたくない。
これが神楽の言い分らしい。神威も何も言わないが、内心では星海坊主と一緒には行きたくないのだろう、と先生は困ったように言った。
嫌いではないのだろうが、やはり高杉と同様あまり家にいなかったことが原因だった。
「そんな二人を無理やり連れて行くのも心苦しいと、私に相談してきたんですよ」
「……あの、ハゲがねえ」
脳裏に頭が焼け野原と化したちょび髭の男を思い浮かべる。世界的にも有名な武道家も、流石に自分の子どもたちには太刀打ち出来ないらしい。
「そういうことなので、明日から四人でこの家で暮らしてください」
もう既に決定事項らしい。拒否権は無しですか先生。いや、別に一緒に暮らすとかが嫌というわけではなく。
「「…分かりました」」
「はい」
自分たちは結局、この人に勝てることなど出来やしないのだ。
次の日から自分を含めた四人は『家族』みたいなものになった。
始まりは唐突に
(『家族』の温もりを知らない自分たちが、『家族』になるなんて思わなかったけれど)
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新連載です。今からどうなるのか、もう分からない(^q^)
楽しんで頂けたら幸いです。