longU
□不安定
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兄妹→小学生
「一緒に中国に行くぞ」
最初にこの言葉を聞いた時は何を言っているのか分からなかった。
けれど直ぐにこの言葉の意味を理解して、ふざけるなと思った。昔から何かと家を開け、自分と妹を残していっていた男がいきなり父親気取りか。母が死んだ時でさえ家を出ていたこの男と共に行くという行為が、なんだか酷く嫌で否定の言葉を口にしようとした瞬間隣に座っていた妹が先に言葉を発した。
「嫌アル」
少し震えているような気がした。
親父は驚いたように目を丸くして妹をじっと見ていた。それは自分も同じことだったが。
自分は無意識の内に妹は親父について行くのだろうと思っていた。自分と比べて幼かったこともあったし、母が死んでからは親父がいつまた帰ってくるのかとずっと気にもしていた。たまに帰ってくればずっとベッタリでもう何処にも行かないでと泣いた時もあった。
そんな妹が共に行くことを拒否したのだ。自分は言おうとしていた言葉を飲み込んでじっと妹に任せることにした。
「どうしてだ、神楽ちゃん?お父さんと一緒に居れるんだぞ?」
「…嫌アル」
そよちゃんと離れたくない。
そよちゃん、とは確か最近この辺りに越してきて妹と仲良くなった女の子だったと思う。
「そりゃあ、友達と離れるのは寂しいが、時々は日本(こっち)に来たりもするし、ずっとお別れになることはないぞ」
「嫌…」
頑なに拒否する妹に親父は困り果てている。少しいい気味だと内心ほくそ笑みながらも妹を見た。ギュッとスカートをしわくちゃに握りながら俯く姿は何かに耐えているように見えた。実際、耐えているのだろう。
本当は親父と一緒にいたい。ずっと願っていた想いが叶うのだ。けれど、その反面ずっと放置され続けてきた親父への反抗心がある。妹はその反抗心を取ったのだ。友達と離れたくないなど口実に過ぎない。
妹と違って何も言わない自分をちらりと見て自分が妹を説得する気がないことを察した親父は、何かを考え込むような素振りを見せ溜め息をつくと『また、来る』と言って家を出て行った。何度も見た、親父の背中だった。
「よかったのお前、行きたいんじゃないの」
二人しかいないこの空間で自分はやっと口を開いた。自分の質問に妹は少し悲しそうに笑いながら答えた。
「いいネ、これでいいアル」
自分よりも幼いにも関わらず、じっと我慢するその姿を見て、なんだコイツも自分と同じことを思っていたのか、と気付いた。
「ふーん…」
「兄貴はいいアルか?」
「俺はあんなハゲ親父と一緒に行くなんてゴメンだヨ」
べっと舌を出してふざけて否定すれば、少し安心したように頬を緩ませたのが分かった。馬鹿だな、お前を置いていく訳ないだろう。
すっと自分と同じ母譲りの夕焼け色の髪をぐりぐりと撫でつけるように手を動かした。
それから四日後、再びやって来た親父に言われ自分たちは、昔から遊んでもらった銀色と片目のお兄さんと一緒に住むことになった。
『家族になりなさい』
親父と昔からの知り合いである先生に微笑みながら言われた言葉を胸に抱きながら、ギュッと妹と繋いだ手に力を入れた。
不安定
(ぐらぐら、ぐらぐら、揺れに揺れ動く)
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神威兄さん、いい兄さん←
ちゃんとね、神威兄さんだって考えてるんです。ただの喧嘩馬鹿じゃないんです。