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□色鮮やかに
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攘夷時代




写真を撮ろう、と坂本が言った。


「わしらがここにいたことを、形に残すんじゃ!!」


良いかもしれん、と桂が頷いた。


「俺たちが出会えたことに、感謝出来るように」


面白そうだ、と高杉が笑った。


「いいじゃねぇか、これも一つの娯楽だろう」




銀時は写真など、自分の姿を映し出すものが昔から嫌いであった。

物心がつく前から、容姿のことで忌み嫌われ恐れられてきた銀時にとって、自分の姿を映し出すというものに嫌悪を抱くのは仕方がないことであっただろう。

だからこそ、坂本の発案に銀時は頷くことが出来なかった。


「のう、金時。どうしても駄目がか?」


坂本のお願いに銀時は、眉根を寄せながら困ったように頭をがしがしと掻く。


「悪ぃな、俺はあんまり撮りたくねぇんだ」


「それから俺は、金じゃなくて銀だ」と付け加えるのも忘れない。


「じゃが、わしは撮りたいぜよ。おんしらと会えたことを形に残したいぜよ」


しかし、坂本は諦めない。銀時は坂本から顔を逸らす。

その様子を見ている高杉と桂は、銀時に何も言わない。
幼少の頃より共にいた二人は、銀時が自分の姿を映し出すものが嫌いだということを知っているからだ。

昔、銀時が松陽に拾われ塾に来るようになり、やっと高杉と桂に懐き始めた頃。ある日、屋敷の一室から何かが割れる音が聞こえた。
急いで、松陽と共にその音が聞こえた部屋に向かった高杉たちが見たのは、必死に鏡を殴りつけて壊している銀時の姿だった。

鏡を殴りつけている小さな拳は、血で真っ赤に染まっており、慌てて三人は銀時を止めたのだった。

その時初めて三人は、銀時が自分の姿を映すものに嫌悪を抱いていたのを知った。




未だに諦めない坂本とそれを断り続ける銀時。そんな様子に桂は溜め息を吐く。


「やはり無理か……」


時が経つにつれて、銀時の容姿を指摘するようなものも減り、銀時も自分の姿を気にしなくなったと思っていたが、やはりまだ抵抗があるようだ。


「まあ、カメラを見て暴れ出さないところを見ると、その辺は平気になったようだな」


きっと、昔のままだったら今頃坂本からカメラを奪いあげ、粉々な壊していたところだろう。

高杉は何も話さず、じっと銀時のことを見ていた。


「だぁあああ!!撮らねえもんは撮らねえ!!」


銀時はそう言うと走って部屋から出て行ってしまった。

肩を落としながら、桂たちの元に戻ってきた坂本。


「駄目だったぜよ〜…」

「まあ、仕方なかろう。坂本もよく粘ったほうだ」

「じゃがぁ…」

「それに……」

「?」


桂は笑いながら言葉を続ける。


「まだ、諦めるのは早いぞ?」


そう言って、いつの間にかいなくなっている、もう一人の幼なじみの顔を思い浮かべながら桂はまた笑った。














銀時は部屋から飛び出したあと、自室に籠もっていた。


(辰馬にゃあ、悪いことしたな…)


確かに幼い頃よりは、自分の姿を映し出すものへの嫌悪感は薄れている。しかし、薄れているだけで、完全になくなった訳ではないのだ。それを、分かっていたからあの二人の幼なじみたちも、銀時に何も言わなかったのだろう。


(いい加減治さねえと……)


そうは思うものの、なかなかやはり上手くいかない。幼い頃に染みついたこれは相当深く根付いているらしい。

ハァと銀時は溜め息を零す。
その時自室の襖が開く音がし、俯いていた顔を上げる。そこにいたのは高杉だった。


「よう、銀時ィ」

「高杉……」


高杉は軽く声をかけると、ズカズカと部屋の中に入り、銀時の目の前に腰をおろした。


「……なに」


嘘だ。なにと聞かずとも、この男が自分の元に来た理由などわかっている。


「わかってんだろ」

「…………」


じっと鉄色の瞳が銀時を見つめる。銀時は気まずくなり、ふいっと目線を逸らす。
そんな様子の銀時を見て、高杉は静かに言葉を紡ぐ。


「……まだ、恐ぇか」


高杉の問いに銀時は何も答えない。

知っているくせに。わかっているくせに。

そんな言葉が銀時の頭の中にこだまする。


「覚えてるかァ?」


ふいに高杉は、目を閉じながら銀時に聞く。
何のことだかわからない銀時は、目線を少し目の前の男に戻す。


「昔、お前の容姿について先生が仰ってたこと……」


閉じていた瞼を開き、銀時の目を真っ直ぐ見つめる。奇麗な鉄色がのぞく。

銀時の脳裏に優しい恩師の声が蘇る。




『確かに人というものは、外見でその人の価値を決めてしまものが多いかもしれません。逆に人は外見ではなく、中身だというものもいるでしょう。けれど私は、どちらも同じことだと思うのです。人の価値観なんて、人それぞれのものですし、それに一々合わせていたら疲れちゃうじゃないですか。』


記憶の中の恩師はにこりと笑う。


『だから、その人のことを本当に分かってくれている人が傍にいればそれでいいんです。それでいいじゃないですか。』


『ねえ、銀時。いくら他の人がお前のことを恐れても、嫌っても私はちゃんと知っています。小太郎も晋助もちゃんと知っています』


『お前は奇麗な銀色。私の愛しい息子です』




もちろん覚えている。忘れるわけないじゃないか。あの言葉が凄く嬉しくて、生まれて初めて嬉し泣きをした。

けれど、やっぱりその時は心からその言葉を信じることが出来なくて、その申し訳なさにさらに泣いた。

初めてこの銀色を奇麗だと言ってくれた人。そして、もう一人。

奇麗だと、言ってくれた奴がいた。

そいつは。


「てめぇは奇麗だなァ、銀時」


あの時と同じ笑みを浮かべながら、あの時と同じ台詞を言う酷く優しい幼なじみ。














「それじゃあ、撮りますねー」


あの後、広間に戻り「写真を撮る」と告げた銀時。その言葉に坂本は喜び、桂は優しく笑った。

すぐに部下を一人捕まえて、今まさに撮ろうとしている状態。左から高杉、銀時、桂、坂本の順に並んでいる。

部下の掛け声に四人は目線をレンズに向ける。


「……高杉」


ふいに銀時が小さく声を掛けてきた。


「あぁ?」


高杉は短く言葉を返す。


「あのさ……」


部下の声が響く。


「……ありがとう」


銀時の台詞を聞いた高杉は、ふっと目を優しげに細め口を綻ばせる。


「…おう」


シャッターの音がなった。












色鮮やかに
(写真の四人は、誰もが幸せそうに微笑んでいた)













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写真ネタ^^
高杉を意外にもノリノリにしてしまった
まあいいんだ、だって私が楽しかったから←

この写真は四人に一枚ずつ渡されて今でも大切に持ってればいい

高杉さんも持っていてたまたましまいっぱなしだったのを見つけて、ちょっと懐かしいなとか思ったりして一人笑っていて、それが見たことがないような優しい笑みだったから、こっそり覗いてた鬼兵隊の幹部三人がびっくりしたとか、そういうのもおいしいよね←同意を求めるな

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