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□この日のことを僕は忘れない
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村塾時代





何となく外に出た。
松陽に貰った刀をしっかり両手で抱え、行く先も決めぬままただ何となく外に出た。


いつもなら、桂や高杉と遊んでいる時間だが今日は二人とも用事があって、遊びに来なかった。
何となく外に出た、と表したが本当はただ単純につまらなかっただけかもしれない。

自分も存外人間らしくなったと心の中で自嘲する。



当てもなくぶらぶらとしていたら、ある家族を見かけた。息子が母親に水飴をせがみ、そんな息子を宥めようと母親が話し、その様子を父親が微笑ましそうに見ている。


ごくありふれた幸せな家庭。


銀時は『家族』というものが未だよくわからなかった。
けれど、松陽に拾われる以前からあのような『家族』というものを見ると、どうしようもなく胸が苦しくなったのを覚えている。



今回もその例に漏れず、胸が苦しくなり近くにあった川の土手に座り込んだ。
以前より胸の苦しさが酷くなっているようだった。何故、と銀時は疑問に思う。


その理由が松陽や桂、高杉と出会い誰かと一緒にいる暖かさを知ってしまったからと気付くのはもっとずっと後になる。













「……銀時?」


しばらく座り込んでいると、ふいに聞き慣れた声が耳に入ってきた。


「……晋、すけ?」

「何してんだ?こんな所で」


高杉は疑問に思う。銀時は基本松陽と共に暮らす家から余り外に出ない。銀時の特徴である銀髪や紅い瞳のせいで、よく他者に陰口をたたかれる。出るときは、必ずといって松陽や桂、そして高杉らと一緒に外に出ていた。しかし、今見る限り銀時は一人である。


「…散歩」

「ふーん…」


何となく腑に落ちないが、まあ良しとしよう。


「帰らねえのか?もう、そろそろ日が暮れるぜ」

「帰る…」


そういうと、銀時は未だ少し苦しい胸を押さえながらその場から立つ。
胸を押さえる銀時を不審に思った高杉は再度口を開く。


「何だ…?気分でも悪いのか?」


そんな高杉の質問に違うと首を振る。


「じゃあ、どうしたんだよ」


高杉がそういうと銀時は言いづらそうに目を泳がせてから、ボソボソと答える。


「……『家族』っていうのを見ると…胸が苦しくなる」


そんな銀時の答えに高杉は最初疑問に思うが暫くして考えが纏まった。伊達にこの不器用な奴の友人をやっている訳ではない。


「何だ、銀時。てめぇ…『家族』が羨ましいのか」

「え?」


羨ましい…?『家族』が?
銀時は混乱する。そんな事考えてもみなかった。混乱している様子の銀時を見て高杉は呆れたように溜め息をつく。


「てめぇの家族は松陽先生だろうが」

「先生が…?」


でも、でも『家族』というものは。


「でも俺…先生と血繋がってないよ…?」


恐る恐るというように言葉を紡ぐ銀時に、高杉は再度呆れたように溜め息をつく。


「んなもん関係ねぇよ。血なんか繋がってなくても、お互いに想い合ってんならそれは家族だろう?」

「……っ!」


自分と先生は家族…?
そんな事があってもいいのだろうか。戸惑う銀時に高杉は何かを決めたかのように「よしっ」と呟く。


「銀時!」

「な、なに?」


いきなり大きな声を出した高杉に戸惑いながらも、返事をする銀時。そして高杉は高らかに宣言する。


「俺は今日からてめぇの家族だ!!」

「えっ?!」


そういうと高杉は銀時の手を握り歩き出す。


「しっ晋助?!」


いきなりの家族宣言に混乱する銀時。もうさっきから混乱することばかりだ、と銀時が思っていると高杉が口を開く。


「これからは俺も家族だ。だから…、」

「?」


高杉は振り向き優しく銀時に微笑みかける。


「もう、寂しくねぇだろう?」


そういうと直ぐに顔を前に戻しそこからは一言も話さない高杉。

戸惑いと混乱ばかりの銀時でもわかったのは、高杉の耳が赤いのは夕陽のせいではない事とさっきまでの胸の痛みがすっかりなくなっていたことだった。










この日のことを僕は忘れない
(握られた手が、とても暖かった)















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初の高銀
とにかく、仔晋に「家族になってやんよ!」を言わせたかったんです。
サーセン←
こんな駄文ですが、お付き合いの方よろしくお願い致します!!

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