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□巡り愛
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「銀時、いい加減に起きんか」
聞き慣れた声が耳に入る。
けれど、窓から差し込む暖かな太陽の光が気持ち良くて、掛けられたら言葉を無視して再び夢の中へと意識を落とす。
だが、口うるさい幼なじみはそれを許すはずもなく、自分の頭を軽く叩く。
「いてっ……何すんだよ、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ。朝から寝おって、だらしがないぞ」
「うっせぇ、寝みぃんだから仕方ねぇだろ」
「それは、貴様が遅くまで起きてるのが悪いのだろう。自業自得だ」
呆れたように桂は溜め息をつく。
「もうすぐ、HRが始まる時間になるから、わざわざ起こしてやったのだ。むしろ、感謝してほしいな」
「へーへー、アリガトウゴザイマシタ」
棒読みの感謝の言葉に桂は、またつらつらと物申す。そんな桂の言葉を、右から左へと聞き流しながら銀時は、あぁ本当にこういう所は変わらないなと思った。
随分と懐かしい頃の夢を見たものだ。
自分がこの世界に生まれたばかりの記憶。
あの後、すぐに銀時は死んで生まれ変わったことに気付いた。しかも、本当の父のように慕っていた亡き恩師の実の息子として。
母親は銀時を産んですぐに死んでしまい、今日まで父である松陽と二人で生きてきた。
きっと、松陽も前世の記憶はあるだろうが、そのことについて話したことはない。もちろん、銀時にも記憶があることを伝えていない。
怖かった、というのが一番の理由であろう。生前の松陽の教えは『何があろうとも、けして感情に任せて刀をとることなかれ』。
しかし、自分たちはその教えに背き戦へと赴いた。
そのことに後悔している訳ではないが、やはり教えを守れなかったという罪悪感が大きい。そして生まれてすぐに見た松陽の顔。
嬉しげでけれど泣きそうな顔。
あの顔が頭から焼き付いて離れない。
その後は、平和に二人で暮らしていたが、やはり腐れ縁というものは切っても切れないものであって。
成長するにつれて、前世で関わりがあった者たちとどんどん再会していった。
けれど皆一様に、前世のことを覚えていなかった。
何度、記憶がなければと考えたことだろう。しかし、それが自分への罰なのだ銀時は思った。
死んだときのことは、覚えていない。
思いだそうとすると霞がかったようにぼやけてしまう。
それでも、断片的に覚えているのは赤い炎と未だに会えていない、そもそもこちらに生まれ変わっているかも分からない隻眼の彼。
そうして、自身が愛用していた血濡れの折れた木刀。
思考に意識を駆け巡らせていると、今世では教師となり、今や自分たちの担任をしているマダオが騒がしい教室内に入ってきた(因みに校長はお登瀬である)。
朝のHRが始まった。
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