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□とある男はいった
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攘夷時代 ※第三者視点 軽い死ネタ




私は末端の末端の一介の兵士であります。

私がいつ、どこで、どうやって、どんな言葉を吐いて死のうとも、誰にも気づかれることも哀しまれることもなく時間は進んでいくでしょう。

しかし、それでいいのです。

私はけして許されない罪を犯しました。
まるでがぶがぶと湧いてくる水のように血は溢れ、それは止まることを知らず。


私が誰かに想われて死ぬなどきっと誰も許しはしないでしょう。




















私は鬼兵隊という様々な隊がある中でも、抜きん出て怖れられ恐れられ畏れられている隊の末端の末端に属しております。

何故、私がこの鬼兵隊に入ったのかはそれはやはり一つしか理由はないでしょう。

一言で言ってしまえば私はある一人の人物に魅せられてしまったのです。

けれどこの理由で鬼兵隊に志願した者は何も私だけではありません。私以外にもたくさんおります。

それだけ彼は魅力的、だということでしょう。私も魅了された一人の人間です。

彼は若くしてこの鬼兵隊をまとめ率いる人間であり、またその強さは目を見張るものがあります。

私は彼よりも幾つか上でありますが彼には尊敬、畏怖といった感情を抱いております。

その眼光は常に鋭く研ぎ澄まされており、あの眼に射抜かれたとき、ぞくりと私は身体中の血が騒いだのを感じました。



私は末端の末端の一介の兵士でありますが、彼のもとで戦ったことは一生自分の誇りとなるものです。





















その姿を見たのは偶然でした。いえ、必然とでも言うのでしょうか。

私たちの陣には鬼兵隊とは別の意味で畏れられ恐れられ怖れられている一人の兵士がおります。

その男は銀色の髪を靡かせ圧倒的な力によって敵である天人たちを斬り伏せていきその姿はまさしく夜叉。

男は白夜叉、と敵はおろか味方からも畏れられ恐れられ怖れられていました。

そんな銀色の彼を見かけたのは梅雨の朝早い庭でのこと。昨夜は雨が降っていたので庭の木々は朝露で濡れており、きらきらと太陽の光を浴び輝いて。

どこか神聖な場を思わせる空気のなか、銀色の彼はその腕に何かを抱え俯いておりました。


『どうかなされたのですか』


自分が後ろから声をかければ銀色の彼は驚いたように振り向き、私の姿を見れば眼を見開きました。その紅い紅い眼を皆は恐ろしいと嫌悪しておりましたが、私は逆に美しいと感じました。

声をかけたまま銀色の彼は暫くは私の姿を凝視しておりました。きっと私のような一介の兵士が話しかけてきたことに酷く驚かれているのでしょう。

一介の兵士たちは皆、この銀色の彼を恐れ話しかけようとも、ましてや近づこうともしませんでしたから。

暫く待っても口を開こうとしませんでしたので、もう一度声をかけようとしたとき、銀色の彼が抱えているものが見えました。

血と泥で元の色が分からなくなるほど薄汚れた一匹の。


『……猫?』

『…おおかた天人共に、殺されたんだろ』


そこで初めて話した銀色の彼は寂しげに笑いました。

私は無性に胸が苦しくなりました。

だって、私は知っていたのです。


銀色の彼が私が尊敬してやまない彼と親しかったことを。彼が銀色と話すとき優しげにあの鋭い鉄色の瞳を緩ませていたことを。


私は知っていたのです。


私は黙って銀色の傍へと近づき、隣へとしゃがみこんで土を掘り出しました。昨夜の雨のおかげで、土は柔らかく簡単に掘り起こせます。

私の行動に銀色は戸惑っているようでしたが直ぐに私と同じように土へと手を伸ばしました。

できた穴に猫を横たえ、土を優しくかぶせてゆき最後に目を閉じ手を合わせました。


『ありがとうな……』


銀色の彼は先ほどの寂しげな笑みではなく、優しげな笑みで言いました。

その笑みを見た瞬間、私は思わず声を零しました。


『羨ましい……』

『え?』

『この猫が…』


羨ましい。
もう一度呟くと、銀色の彼は何故と聞いてきました。


『この猫は、自分が死んだことを覚えてくれる人がいます。私には、そんな人いませんから』


いや、そんな人がいてはいけない。
私は罪深い人間なのだから。


『覚えてるよ』

『え、』


今度は私が疑問に思う番でした。
銀色は真っ直ぐに私を見つめてきました。

その時、私は身体中の血が騒いだのを感じました。

あの時と同じ。



『俺が、覚えてる』



不覚にも涙が出そうになった、そんな梅雨の朝のことでした。





















あぁ、苦しい。
がぶがぶと血が止まりませぬ。
きっと、私はここで死ぬのでしょう。

誰にも気付かれることなく、哀しまれることもなく。

けれど、それでいいのです。

これは私が望んだこと。
私は罪深い人間です。


家族を見殺しにしました。


きっと、父も、母も、兄も、妹も。
私を怨んでいるでしょう。

地獄に堕ち、閻魔様に裁かれるのが当然なのです。

あぁ、睡くなってきました。
最期が近いのでしょう。


『オイ、』


あぁ、目の前に銀色が。


『お前、死ぬのか』


えぇ、えぇ。そうですとも。
私はこれから死ぬのです。

心臓が身体中に血を送るのを止め、肺が酸素を取り込み呼吸をするのを止め、身体はだんだんと熱を失っていくのです。


『覚えてるよ』


あぁ、あぁ。


『覚えてる』


空が眩しい。


『猫を埋めてくれるの手伝ってくれて、』


眼が、頬が、熱くて熱くてたまりませぬ。


『ありがとうな』


あぁ、あぁ、やはり。


貴方は奇麗なお方です。


どうか、彼と幸せに。

幸せに。


『…幸せ、に……なっ…て、く…さぃ…』


銀色が笑う。





















私は末端の末端の一介の兵士であります。

私がいつ、どこで、どうやって、どんな言葉を吐いて死のうとも、誰にも気づかれることも哀しまれることもなく時間は進んでいくでしょう。

しかし、それでいいのです。

私はけして許されない罪を犯しました。
まるでがぶがぶと湧いてくる水のように血は溢れ、それは止まることを知らず。


私が誰かに想われて死ぬなどきっと誰も許しはしないでしょう。



けれど、貴方だけは許して下さいました。


私はそれに、確かに。

救われたのです。












とある男はいった
(私は、彼の銀色に救われたのです)












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第三者視点。
何が言いたかったな駄文。すみませ((←
この兵士は実は銀さんに随分と前に惚れてたんだよって話。

題名のいったは、言ったと逝ったをかけております。

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