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□いつだって焦がれてた
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現代 ※偽最終回後捏造




ガヤガヤと相変わらず騒がしいこの町は、ふっと自分を昔の自分に戻してくれる。もう日課となった万事屋の掃除は一度でも、欠かしてしまうとその日一日が落ち着かなくなってしまうほど。そう考えると自分は本当に未だあの家に、家主に、未練があるのだなと自嘲するように口元を歪めた。


「今日もかい」


いつものように階段を登ろうと足を踏み出せばお登瀬が声をかけてきた。


「お登瀬さん…」

「新八、アンタもそろそろ…」


そこから続く言葉は知っている。もう何度も言われ続け、そのたびに首を横に振り否定してきた。


「…馬鹿だね、アンタも大食い娘も、」


アイツも。

音にはならなかった。けれど口の動きでお登瀬が何を言ったか分かる。自分はただ苦笑した。そんな自分を見て、お登瀬は紫煙とともにため息を吐く。


「…団子屋の魂平糖の近くに、最近絵描きが流れてきてね」

「え?」

「行ってその情けない顔をいっぺん描いてきてもらいな。少しは自分が今、どんな面してるのか分かるだろうよ」


そう言ってお登瀬は店へと戻っていった。










いつの間にか足はお登瀬の言っていた絵描きがいる方向に向いていた。お登瀬が意味のないことを言うとは思わない。もしかしたら、何か意味があるのかもしれない。…ただの嫌みの可能性もあるけれど。

しばらく歩けば、茣蓙を敷いてその上に胡座をかいてひたすら鉛筆を動かす男がいた。その顔があまりにも真剣で、話しかけるのが躊躇われたから思わず立ち止まってその様子を見ていた。

しゃっ、しゃっ、という鉛筆を走らせる音。男の目の前に一匹の野良猫が身体を丸めて日向ぼっこをしていた。(あれを、描いているのか)ぼーっとした頭で考えた。


「眼鏡の兄さん、何かご用ですか?」

「…え?…あ、」


いつの間にか猫はいなくなっていて、男も下に向けていた顔を上げて自分に柔和に笑いかけていた。若い男だった。


「すみません、不躾にずっと見てしまって」

「いえいえ、気にしてなんかいませんよ」


からからと笑う男にほっと息をつく。そうしてゆっくりと近づいていった。


「どんなものを描いてらっしゃるんですか?」

「色んなものを描きますよ」


見てみますか?と笑いながら問いかけられたのでいいんですか?と聞き返した。


「かまいやせんよ」


すっと差し出された紙の束は角で紐に通されていて結構な厚さのものだった。紙はもう随分とくたびれていて間違って破かないように捲っていく。

どこかの田舎の田圃道、古い神社、鳥に魚。花や虫、笑って駆け回る子供たち。これといった共通点なんかありはしなくて本当に自分が描きたい、と思ったものを自由に描いてきたようなそんな絵ばかりだった。


「あ、」

「どうしました?」

「この人たちって…」

「え?…あぁ、」


自分が見ている絵に得心がいったのかふわりと笑った。その笑顔はどこか自慢気だった。


「綺麗な人たちでしょう?」


私がまだ絵描きを目指したばかりのころに出会った、一番最初のお客様です。


「といっても、私が無理にお願いしたんですけどね」

「…………」


恥ずかしがるように頭を掻きながら話す絵描きの言葉なんか頭に入らなくて。ただただ、その絵に目が釘ついた。


笑っていた。笑っていた。
炎に囲まれたターミナルから、姿を消した二人が。

どうして何も言ってくれなかったのだと。
自分たちはそんなに頼りなかったかと。

悔しくて、悲しくて、憤ったりした。


それでも、いつかまただらしなく笑って戻ってくるのではないか、とずっとあの家に通い続けた。

諦めきれなくて。踏ん切りがつかなくて。


(あぁ、でも……)


「こんな顔してるなら、きっとアンタは幸せなんでしょうね」


泣きそうになる目を伏せながら呟いた。

お登瀬が伝えたかったのはこのことだったのだろう。だったら、あの子にも伝えなくてはいけない。銀色を本当の親のように慕っていて、一番泣いたのはあの夕焼け色の彼女だったから。


「すみません、明日も来ていいですか。コレを見せたい子がいるんです」











いつだって焦がれてた
(けれど、あなたが笑っているなら私は、)





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駄文すみませ(((
銀さんがいつか帰ってくると信じていたけど心のどこかでは、きっと帰ってこないことを悟っていた新八の心情…なんですかねコレ?(聞くな)

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