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□恋は盲目
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盲人高杉×銀時




冷たい風を浴びながら小走りに道を抜ける。道の両脇には紅葉の木や銀杏の木が交互に並んでいて、ちょっとしたトンネルのようになっている。ひらひらと紅く染まった紅葉が舞い時々、鮮やかな銀杏の葉も混ざって、あぁ秋だなぁと頭の隅で思う。小脇に抱えた本を確かめるようにぎゅっと力を入れた。

暫くすると、大きな屋敷が見えてきた。基本は和式で統一されているが、所々に硝子やレンガで後から付け足したように装飾されていて何ともアンバランスな具合になっていた。ここの屋敷の主が新しいもの好きで異国のものを次々と取り入れていったことが理由なんだけども。それでも、うるさく感じないのはやはり住んでいる人間の人間性というものか。立派な門をなんの躊躇いもなくくぐり抜けガラガラと乱暴に戸を開けた。そして、屋敷の主の名を呼ぶ。


「高杉っ!」

「叫ぶな。分かってる」

「なんだ、今日は起きてたのか」

「俺がいつもいつも寝てると思ってんじゃねぇよ」


ぺしりと頭を軽く叩かれる。理不尽な。毎回訪れるたびに部屋に籠もって寝ているのは事実であるのに。唇を尖らせ拗ねていれば、そんな様子も予想済みだと言わんばかりにくくっと笑えば「で?」と言葉を促してくる。


「今日の品は?」

「『蜜柑』」


持ってきた本の題名を口に出せば楽しげに口を緩め、奥へと背を向けた。そんな態度も気にせず慣れたようにその後を追いかけた。




* * * *



「『或曇った冬の日暮である。私は横須賀発上り二等客車の隅に腰を下して』……」


『蜜柑』の主人公は、汽車の中で乗り合わせた見すぼらしい小娘が、トンネルの中で窓を開ける無知・不作法に不快感を募らせる。しかし、トンネルを抜け出た線路際で、喚声を上げ手を振る男の子たちの上に、少女が投げ与えた蜜柑ですべてを悟る。奉公先に赴くところらしい少女と、見送る幼い弟たちとの心情が、乱落する鮮やかな蜜柑の色として焼きつけられる。嫌悪は朗かな心持ちに逆転し、「私」は退屈な人生をこの時わずかに忘れることができた、という物語。

ちらりと目の前で目を閉じながら自分の朗読を聞いてる高杉を見る。といっても、この男は常にその目を閉じているのだけれど。昔、怪我をして見えなくなった左目に病のせいで極端に視力が悪くなってしまった右目。昔こそ何とか人の顔の見分けが出来ていたらしいが今では明るいか暗いかの判別しか出来ない。だから、朗読している自分の顔もこいつは知らない。いつからか、ここに通って目の見えない高杉に本を読み聞かせることが日課になっている。


「明日から、目の治療の為に異国へ行く」

「え……」


何の前触れもなく告げられた言葉に思わず朗読を止め高杉を凝視した。


「前から決めてた。やっと向こうの医者で都合のいい奴を見つけてなァ」

「明日?」

「あぁ」

「どんくれぇ?」

「二年」

「……そっ、か」

「あぁ」

「………」


自分がここに来る理由がなくなる。その事実に寂しさを感じる自分がいて、何故だか酷く胸が苦しかった。





恋は盲目
(明日に、この人はいなくなる)




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中途半端。すみません。きっとたぶん恐らく続くでしょう←

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