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□鍋食うぞ
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現代




「鍋食うぞ」


そう二カ月振りに顔を合わした悪友は、ずいっと手に持っていたそれまたこの男には似合わないベージュと緑の色合いのエコバックを突き出してきた。中をちらりと覗けば、一番始めに目に入ったのは見事なまでの白菜で。他にもネギや人参なんかも入っていて完璧に鍋の材料であった。

いきなり来て何を言っているんだ、だとか自分に作れと押しつけるな(結局のところ男は料理なんてまともに出来ないので自分が作るしかないのだが)、だとか色々言いたいこともあったが「寒ぃ…」と肩を竦めながら横を通り過ぎた男の二カ月振りの背中を見てまぁいいか、などと思ってしまった自分は大概甘いと思う。はぁ…と溜め息を吐き、さっさとこの材料で鍋を作るべく台所へと足を動かした。今日は居候人の大食い娘が眼鏡の家に泊まっていくと連絡を受けていたのでタイミングのいい奴だと苦笑した。




* * * * *


立派な白菜やネギ、人参、普段の自分では手の届かないようなお高い肉を切り、鍋に詰めそこにもともと冷蔵庫にあった豆腐を加え、キムチの元という便利な調味料で味付け。炊いておいた白米も器へ盛り、いざ行かん食卓へ。行儀悪くも足で襖を開ければ、ぬくぬくと一人暖まっていた男は呆れたような顔をした。そんな顔をするなら手伝いのひとつでもしろと、思わず言いかけた言葉を黙って飲み込む。


「はいはい、お待ち遠さまー」

「火ぃ点けるぞ」

「あいよ、ほれ飯」

「…普通、締めに飯で雑炊作らねェか」

「細かいことは気にしなーい。心配せずともまだ残ってっからでぇじょうぶ」

「そうかい」


暫くすればぐつぐつと煮立ってきた鍋。キムチの香りが食欲を誘う。甘いものさえあれば生きていける自分だが偶には、ピリッとしたものだって食べたいのだ。


「お、煮立ってきたねぇ」

「もういいか?」

「そうだな、では…」


いただきます、と二人で声を揃え手を合わせた。黙々とひたすら鍋に箸をつける姿は平和の何者でもない。片や世間では過激派攘夷志士として指名手配されている危険きわまりない男だ。まあ、自分に言わせればただの偏食で厨二な悪友でしかない。


「暖まるなー」

「だなァ」

「しかも、何この肉。柔らかすぎ」

「なんだ、嫌なのか」

「いや、旨すぎてどうしようと思っている」



自分のその言葉を聞いて貧乏くせェなァ、とけらけら笑う高杉にとりあえず一発蹴っておいた。痛がりようが半端ないが、きっとあれだ、弁な慶さんに当たったのだ。あの人、流石にそこを蹴られちゃダメだったらしいから。うん、ざまぁ。


「銀時ィ……」


じとりと恨みがましく睨んでくるが、その一つしかない目はうっすらと濡れていて全く怖くない。綺麗に無視して残り少なくなってきた鍋に飯を入れ、もう一度煮立たせる。締めはやはり雑炊に限る。うどんも好きだけど。


「卵も入れようぜ」

「賞味期限三日前に切れたのなら」

「………いけんだろ」

「では、ここで消費しちまいましょー。流石に神楽にあれでTKGはさせられねぇし」

「『TKG』?」

「T(たまご)K(かけ)G(ご飯)」

「なる程」


寒い台所から持ってきた卵をといて鍋に流し込む。ゆるりと軽くお玉でかき混ぜればとろりといい感じに半熟に。


「おー上出来、上出来」

「じゃぁ、早速…」

「あ、テメッ…!」


ズズッ
もぐもぐ
カチャカチャ


「そういえば、お前何し来たの」

「言っただろ」




鍋食うぞ
(それだけか、と問えばそれだけだ、と返された)






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はい、ただ鍋食べてるだけです。なんだこれ。ほのぼのにしたかった。うちの銀さんは料理上手です。えぇ、あんまり生かされてませんが。
 

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