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□焦がれていたのは
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幼い頃、父は言った。



「昔の江戸の空は、どこまでもどこまでも青く蒼く澄んでいて、そりゃあ奇麗な空だったんだぞ。」



大きなごつごつとした手で、私の頭を撫でながら笑って話す父は、本当に楽しそうで。


幼心に嬉しくなったものだった。


そして、そんな楽しそうな父を見て私も見てみたいと強く思うようになった。



父にそのことを話すと、少し困ったように眉根を寄せ、笑いながら言葉を紡ぐ。



「そうさなぁ…お前が大人になる頃には、きっと見れているさ」



そう言って私の頭を今度は、乱暴にかき混ぜるように撫でるのだった。


その言葉は、まるでそうであって欲しいと願っているようにも聞こえた。




そんな会話をした三日後。
父は、天人が運転していた車に引かれて亡くなった。








あれから、十四年。

攘夷戦争後期、英雄と讃えられたら四人の人物の手によって第二次攘夷戦争が発生。

初めこそ、天人が有利だったものの、圧倒的な力により攘夷軍の勝利となった。



不平等な条約は解決され、地球人と天人が平等に扱われる時代へと変化していった。

また、完全ではないものの、以前よりも異郷の舟が飛び交うのも減り、今では幼い頃見たくても見れなかった空が見れるようになった。



私は今年で十八になる。
この歳は父の言っていた『大人』とはまだ言えないけれど、でも。




「やっと、見れました。父上……」




どこまでもどこまでも青く蒼く澄んでいる、奇麗な江戸の空。


桜の花びらがふわりと舞った。




焦がれていたのは
(父が話してくれた、奇麗な青空)






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『愛情理論』プロローグ
やっと始まりました´∇`

亀更新となると思われますが、お付き合いのほうよろしくお願いします。

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