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□拝啓、父上さま
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「ここが今日から働く…」
目の前にはけして大きいとまではいかないが、威厳のある武家屋敷。
ここには、第ニ次攘夷戦争の中心にいた、四人の人物の内二人が暮らしている。
屋敷の扉の前に立つ、少女とはもう呼べないほど成長しており、けれども女性とも呼べるほど大人ではない、一人の人物。今日から彼女、九重 樹(ここのえ いつき)は侍女、使用人として働く。
つい一週間前、この屋敷の使用人募集の広告を見つけ早速面接を受けたのは樹の記憶に新しい。募集内容は『年齢、性別、学歴不問。家事全般、料理、全てできる者求む。』
何とも大ざっぱな募集内容だったが、しかし樹はこの広告を見た時すぐに決めた。
父は幼い頃に他界し、女手一つ樹を育ててくれた母も、去年の暮れ病に倒れた。
母の薬代を稼ぐために働いてきたが、この不況の中十八歳の小娘を雇ってくれる所などそうそうあるわけもなく。
そんな時に見つけた仕事。これをみすみす逃すような真似は絶対にできない。
家事は幼い頃から仕事で忙しかった母に代わってよくやっており、料理も得意なので問題ない。給料も高く、面接が受かり働く事が正式に決まったときは樹はとても嬉しく思った。
「とりあえず、中に入らないと…」
そう呟いて樹は屋敷に踏み入れた。
玄関まで歩き戸を叩く。歩く途中に見えた庭には、桜の木や金木犀。椿の花など四季折々の花や木が植えてあった。
今の時期の桜が見事に咲き誇っている。家主の趣味なのか京都ではよく見られる枝垂れ桜だ。
暫くして玄関が開かれる。出てきたのは、美丈夫な一人の男だった。
人形のように整った顔立ちで、切れ長の鉄色の瞳に、日に透けると紫にも見える黒髪。左目には包帯を巻いている。
紫色の金糸で蝶の模様がはいった、女物のような派手な着物を着ていた。
「てめぇが、ヅラの言ってた今日から働く使用人かァ…?」
低い、けれど綺麗な声が零れる。
「(…ヅラ?)はい、今日から働かせて頂きます。九重い…「待て」はい?」
「挨拶は中に入ってからでいい。連れと一緒に聞く」
そう言うと隻眼の男は中に入っていき、樹もその後に続いた。
中は外で見たよりも広く、物も必要最低限のものしか置いていないようだった。
(これは、物を壊す心配はなさそうだな…)
もし、掃除の時に誤って何かを壊してしまって弁償となっては洒落にならない。そんな、お金は樹の家にはあるはずもなく、給料から引かれるのも痛い。
暫く歩いていき、一つの部屋の前で止まる。
「銀時、入るぞ」
そう声をかけてから、男は襖に手をやり部屋の中へ入っていった。樹も後に続く。
「失礼します」
一言断りをいれ、部屋に入り襖を閉める。
改めて挨拶をしようと、振り向けばそこにはさっきの隻眼の男とはまた別の美丈夫が待っていた。
日に当たったことがないのではないのかと、疑うほどの白い肌。きらきらと輝く癖のある銀髪。柘榴を連想させる紅い瞳。
白地の袖のほうに、流水紋の青い柄が入った着流しを着ており、布団の上で上半身を起き上がらせた状態の男は、樹に目を向けるとふわりと優しげに目を細め言葉を紡ぐ。
「あんたが、今日から働いてくれる使用人さん?」
「…!!は、はい…!」
銀髪の男に問われるが、思わず見とれてしまい、樹は慌てて返事をする。隻眼の男は、銀髪の男を支えるように座っている。
紫と銀
緑と紅
お互いの色を引き立てるような、美しい光景が樹の目の前に広がる。
「申し遅れました。私、今日からこちらで働かせて頂きます、九重 樹と申します」
そう言って樹は頭を下げる。すると銀髪の男は、「あー、いいよいいよ」と気怠げな声をかけた。
「そんな、堅苦しくなんなって。そういうの俺苦手だから」
そう言って男は言葉を続けた。
「気楽にいこうや。あぁ、俺の名前は坂田銀時ね」
それに続くように、隣の隻眼の男も挨拶をする。
「高杉晋助だ」
「高杉様に坂田様ですね。これから、よろしくお願い致します」
挨拶が終わると、高杉は仕事の内容について説明を始めた。
「基本は、屋敷の掃除に洗濯、洗い物と家事全般に、昼食と夕食の準備だ。掃除は一気に全部やらなくていい。日取りで掃除する場所を決めろ」
「それから、」と銀時を見ながら言葉を続ける。銀時は、高杉の目線で考えていることがわかったのか、布団から左足をだす。足には、痛々しく包帯が捲かれていた。
「先の戦争で、こいつは足をやってなァ。最初の頃よりは良くなったんだが、まだリハビリの途中でなァ。時々、サポートしてやってくれや」
銀時は、樹に悪そうに眉根を寄せながら笑い「よろしくな?」と言ってきた。
樹はコクリと頷いた。
そこで、ふと気づいた。自分以外の使用人とまだ会っていないことに。自分より早くきて、もうすでに説明を聞いて仕事に入っているのだろうか。しかし、ここへ来るまでに屋敷で一度も人とすれ違わなかったし、見かけもしなかった。
「あの……」
「あぁ?」
高杉は煙管を口にくわえながら、返事をした。
「私以外に使用人は、いったいどれくらいいるんでしょうか?」
樹の質問に高杉と銀時は、目を丸くした。
「なんだ、おめぇ聞いてないのか?」
「はい?」
何のことだかさっぱり、というように小首を傾げる樹に銀時は口を開いた。
「使用人は、樹ちゃんだけだぜ」
「へ…………?」
今なんと……?
「俺ァ自分の領地に他人が入ることが嫌いなたちでなァ」
「そういうことだから、使用人は樹ちゃん一人しかとってないんだ」
と説明する二人。
「……一人で大丈夫か?」
銀時に心配そうに覗き込まれ、樹ははっと気づく。
「大丈夫です。一人のほうが自分のペースで出来ますし、むしろ効率が良いです」
そう返事をすると、銀時はまだ心配そうな顔で「無理するなよ」と樹の頭を撫でた。
あぁ、この人は優しい人なんだ……
頭を撫でる銀時に、幼い頃亡くなった父が重なる。
暫くされるがままになっていると、高杉が口を開く。
「じゃあ、あの事も聞いてねぇのか」
「「?」」
樹と銀時が同時に小首を傾げると、高杉は銀時の肩を抱き自分に引き寄せた。
「俺と銀時は、まあ所謂恋仲でなァ。その辺のことも頭にいれといてくれや」
そういうと高杉はニヤリと笑った。
樹がポカンとしていると、銀時は顔を赤くしてぷるぷると肩を震わせる。
「……そういうことは、俺に許可を取ってから言え!!この馬鹿杉ィイイ!!」
銀時の叫び声が、屋敷中に響いた。
拝啓、父上さま
(これから、楽しくなりそうです)
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第一話です。主人公と高と銀の出会い。
未だに、主人公のキャラが掴めておりません。あれ、おかしいな…自分で作ったキャラなのに←
こんな感じにだらだらと続く予定です。
さて、第二話はどうしようかネタがない←