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□毒物にはご注意を
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空は快晴。
綺麗な青空が広がる。


「九重さん、この洗濯物干してきちゃいますね」

「あ、はい。ありがとうございます、新八さん」

「いえいえ、皿洗いは任せます」

「はい、よろしくお願いします」


樹の返事ににこりと笑うと、新八は洗濯物を干しに庭へと足を向ける。

今日は屋敷の手伝いとして新八が来ていた。


以前、銀時の見舞いに来た時以来こうやって仕事を手伝ってもらっている。樹を雇う前までは、新八が屋敷の仕事をしていたと本人から聞いた。年も近く話しやすい相手で、樹も好感を持って接している。

新八は倒幕前までは、銀時が営んでいた万事屋の従業員で、今は銀時たちのおかげで復興できた実家の剣術道場で剣術指南をしている。現在、門下生募集中である。

樹が皿洗いをしていると、銀時が台所に顔をのぞかせた。


「あれ、新八は?」

「新八さんなら、お庭で洗濯物を干してもらっています」

「あぁ、そっか」

「何かご用でしたか?」


樹が聞くと銀時は困ったように笑う。


「いや、さっきお妙…新八の姉貴な?から電話があってよ。今からちょっとこっち来るっつうもんだから、何か聞いてねぇかと思ってな」

「電話があったのですか…気付かず申し訳ありませんでした」


樹が頭を下げると銀時はへらりと笑って返す。


「いやいや、樹ちゃんも忙しかったんだろ?気にしてねぇよ」


新八が戻ってきたら聞いといてくれや、と伝えると銀時は台所を出て行った。





「九重さん、洗濯物終わりましたよ」


暫くして新八が戻ってきた。


「ありがとうございます。そういえば坂田様から伝言を預かってますよ」

「銀さんから?」

「はい、何でも新八さんのお姉様からこれから来るという電話があったようで、何か聞いていないかと」


樹から銀時の伝言を聞いて、新八は首を傾げる。


「いえ、何も聞いてませんけど…」

「そうですか…」

「とりあえず、仕事終わらせちゃいましょうか」

「はい」


この時、新八は何故か胸騒ぎがした。
それこそ命に関わるのではないかと、本能に伝えるような。


(何も起きなきゃいいけど……)








仕事も一段落つき、二人は銀時の元へ向かう。銀時がいるであろう部屋の前に着き、新八は襖を開ける。


「銀さん、居ますか?」

「おー、ぱっつぁん」

「九重さんから聞きましたけど、姉上来るんですか?」

「あー、何か仕事に向かう途中、何か渡したいもんがあるとかで来るんだと」

「………銀さん、僕嫌な予感がしてならないんですけど…」

「奇遇だな、新八。………俺もだ…」


銀時と新八が顔を青くする。
樹はそんな二人に首を傾げるばかりだった。

その時、玄関の開く音が聞こえた。


「すみませーん、新ちゃーん銀さーん」

「どうやら、来たようですね」

「「…………」」








樹は玄関までお妙を出迎えに行き、銀時たちの部屋まで案内をし、お茶を出す。


「ありがとう」

「いえ」

「それで、姉上はどうして来たんですか?」

「えぇ、久しぶりに銀さんに会おうと思ってちょっと来てみたのよ」

「それなら、僕と一緒にこればよかったじゃないですか」


新八の言葉に銀時も頷く。


「そうしようと思ったのだけど、新ちゃんお昼までいるっていうし、どうせなら何か作って持ってこうと思って」


お妙は穏やかに笑いながら、風呂敷に包まれた重箱を銀時たちの前へ差し出す。

それを見た銀時と新八は顔をひきつらせる。


「わざわざ、ありがとうございます」

「いいのよ、たくさん作ったからあなたも食べてね」

「はい、ちなみに何をお作りになったんですか?」


樹の質問にお妙はにこりと笑い答える。



「卵焼きよ」



((死刑宣告だ………))


銀時と新八は心の底から思った。







高杉は不思議に思っていた。もうすぐ昼食の時間になるというのに、いつまでたっても樹が呼びに来ないのだ。それどころか、さっきから異様に静かだった。
今日は新八も来ており、一緒に昼食をとる予定だと銀時も話していた。


(ったく、何やってんだァ)


とにかく銀時たちのところへ行こうと、高杉は部屋を出て廊下へ出て行った。
暫く歩き部屋の前まで来ると、高杉は襖に手をかけ開ける。

するとそこには、何やら口の中に黒い謎の物体を入れ白目を向いた銀時と新八がいた。


「…………」



………何も見なかった。



高杉はそう自分に言い聞かせ、部屋を出ようとする。しかし、それは止められた。見ると着物の裾をお妙が掴んでいた。


「……離せ」

「高杉さんもいかがです?卵焼き」


お妙の右手には、銀時たちの口に入っていたあの黒い謎の物体が。


「……それは卵焼きじゃねぇ。可哀想な卵焼きだ」

「あら、卵焼きに変わりは無いわ。銀さんたちも喜んで食べたんですよ」



いや、無理やりやったろコイツ…!!



高杉はにこやかに勧めてくるお妙に、冷や汗を流す。


「さぁ……」


もう駄目かと思った次の瞬間。


「お妙様。その卵焼き、私が頂きます」


その言葉と共に、お妙の手にあった卵焼きが消えた。
高杉とお妙が目を向けると樹が卵焼きを食べている。もぐもぐと咀嚼を繰り返し、飲み込む。


「ご馳走様でした」


そういうと樹はにこやかに笑った。







あの後お妙は仕事があるからと帰っていき、現在、樹と高杉は銀時たちを看病していた。高杉は銀時の髪に手を通しながら、口を開く。


「よく、あんなもん食えたなァ」


しみじみと高杉は言う。
樹はお妙が卵焼きを銀時たちの口に無理やり食べさせる際、二人に庇われ無事だった。銀時たちは、何とか高杉を呼んでもらおうと必死だったらしい。


「何だって、あんなもん食えたんだァ?」

「いえ、正確には実際に食べていません」

「あ?」


高杉は聞き返す。


「ただ単純に、食べたフリをしただけです」


そう言うと樹は、懐から例のお妙の卵焼きを取り出した。
改めてよく見ると、本当に卵焼きになるはずだったものなのかと疑うほど黒い。僅かに、光沢を放っていて異臭がする。

つくづく、これを食べさせられた銀時と新八を哀れに感じた。


「………ちゃんと、処分しとけよ…」

「はい」

「それから……」


暫く卵を使った料理は控えろ。

そう言い放つ高杉に樹は、もう一度「はい」と返事をした。







毒物にはご注意を
(良くて重傷、悪くて死亡となります)







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志村姉弟道場^^
gdgd乙!←

今回は余り高杉と銀さん絡みませんでした。申し訳ない。こうやって、長編書いているとどんどん違う方向へ話が走ります。
危ない危ない。

次も頑張って書きますので、よろしくお願い致します!!

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