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□護り守られ
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大切なものというのは、人によってそれぞれで。
それは、友人であったり、家族であったり、時間であったり、物であったり。
多種多様なものだ。
けれど、一つでも大切なものがある者は、昔から酷く美しいと感じた。
「これは……」
樹は今日、初めて掃除する部屋にいた。
この屋敷で働くようになって暫く経つが、この部屋だけはまだ掃除をしたことがなかったことに気がついたのだ。
理由はこの部屋は屋敷の奥の方にあり、なかなか分かりづらいところにあったことと、以前高杉に余りこの部屋には出入りをするなと言われていたためであった。
余り出入りをするな、と言われただけであって掃除をするなという訳ではなかったので、今日決行しただけの話。
樹の目線の先には、一本の刀。この部屋には他の部屋に比べてさらに物が少なく、そこだけが別の空間に感じる。
紅い鞘に金色の鍔。
みる限り古いものではあるが、大切に保存していたのか綺麗な状態であった。
樹が夢中になってその刀を見つめていると、襖が開かれる音。
「お、樹ちゃん発見」
「坂田様…」
「今日はここ掃除してたのか。悪いな、あんま掃除してねぇから埃とかひでぇだろ」
「いえ、逆にやりがいがあります」
「ははっ、そうかい」
銀時は笑うと部屋に入ってくる。
「何みてんだ?」
「あ、えぇと…コレを……」
樹は戸惑いながら、先ほどまで見ていた刀を指差す。銀時は指の先のものを見ると「あぁ、それか」と呟く。
「結構古いものですよね」
「そうだなぁ、貰って二十年近くは経つからな」
「坂田様のものなんですか?」
「そ。」
おもむろに銀時は刀を手に取り、縛っていた紐を解き、鞘から刀を抜く。
刃こぼれ一つない、美しい銀色が姿を現す。
「俺や、高杉やヅラにとって大切な人から貰った刀だ」
「大切な人……」
「一度も使ったことねぇんだぜ?」
「そうなんですか?」
樹が驚いていると銀時は笑う。
「これは自分の魂を護るための刀だからな」
そう言うと銀時は刀を鞘に戻し、元の場所に飾る。
その一つ一つの動作が酷く丁寧で、本当に大切なものなのだと樹は思った。
「そういえば、坂田様は何をしに此方に?」
「ん?あぁ、そうだったそうだった。忘れるところだった」
「?」
樹は首を傾げる。
「何か最近天人の空き巣が多くてな。一応、気をつけろよ」
そういえば、最近そんなニュースをテレビで見かけるなと樹は考える。現在、真選組がその天人を捜索中だとか。
「はい、わざわざありがとうございます」
銀時が部屋を出て行き、樹は掃除を再開する。埃が酷く空気中を舞う。樹は空気の入れ替えをするために、障子に手をかけた。
障子を開けたその時、誰かが部屋に侵入し樹を押し倒す。
「うわっ!!」
ドンッと背中激しくぶつ。薄く瞳を開き、自分を押し倒した人物を確認する。口は塞がれて声が出せない。
「……静かにしろよぉ、ヒヒッ」
緑色の肌。どこか爬虫類を思わせる顔。赤い瞳。口を厭らしく歪め長い舌を出す。
(気持ち悪い…)
樹は眉根を寄せ天人を睨む。
「おーおー、生意気な娘だなぁ。安心しなぁ暴れないってんなら危害はくわえねぇよ、ヒヒッ」
そう言うと天人は部屋を見渡す。
「しかし、この部屋何もねぇなぁ、せっかくデケェ屋敷見つけたから、何かいい金目のモンがあると思ったんだがハズレかぁ?」
天人の言葉に樹は先ほどの銀時の忠告を思い出す。
『――最近天人の空き巣が多くてな…』
(コイツが空き巣をしている天人か…)
樹が天人の正体に予想をつけていると、天人はあるものに目が止まる。
「お、あの刀はまだいいかぁ?」
「っ!!」
その言葉に樹は目を見開くと、脚を上げ天人に蹴りを入れる。
「ぐあっ!!?」
まさか、抵抗出来るとは思っていなかったのか天人はモロに樹の蹴りをくらう。その時、腕を拘束していた手が緩み樹はすかさず体を起こし、刀を抱え天人と距離をとる。
「この女ぁ…!!」
天人が樹を睨む。樹も負けじと睨み返す。
「おりゃぁあ!!」
声を上げながら天人は拳を振るうが、いとも簡単に避けられてしまう。その後も、しつこく拳を振るい続けるが樹にはかすりともしなかった。
幼い頃、武道家であった父に教わり、樹は体の上手い使い方が身に付いていた。
相手のどこを見て次の攻撃を予測するか、どこを上手く捻れば簡単に避けることができるか、樹は知っていた。
「チィ!!ちょこまかと!!」
天人はなかなか拳が当たらないことに苛立ち尻尾を繰り出してきた。尻尾は長く、大きくそして固かった。
これには、流石の樹にも反応できず攻撃をくらってしまう。しかし、その際に刀を庇うことを忘れない。そんな樹の行動に天人は目聡く反応する。
「何だぁ?そんなに高価なモンなのかぁ?ヒヒッ」
口を厭らしく歪める。
「渡しなぁ、そうすれば命だけは助けてやるぜぇ?」
「……め…」
「あ?」
「……駄目っ…!!」
「何だとぉ……?」
樹の言葉に天人は目を細める。しかし、樹はそんなこと関係ないというように口を開く。
「…これは…この刀は……」
思い出すのは、優しげに細められた瞳。懐古に溢れた笑顔。
本当に大切なものなのだと。
何物にも変えられないものなのだと。
樹は思ったのだ。
「……あの方の、大切なものです…!!」
樹の言葉に天人は顔を歪ませる。
「だったら…死ねぇえぇえ!!」
ギュッと樹はくるであろう衝撃に備えて目を瞑る。その時、
「――テメーが死ね」
その言葉と共に天人は倒れた。
樹が目を開き、見ると高杉が刀を持ち立っていた。樹が驚き固まっていると、遅れて銀時が駆け込んでくる。
「樹ちゃん!!」
「さ、坂田様……」
脚を軽く引きずりながら銀時は樹に触れる。
「大丈夫か!?怪我してねぇか!!?」
「だ、大丈夫です……」
「本当か!?」
「はい……」
「そっか……」
よかった、と安心したように笑う。
その笑顔を見たとき、少しだけ樹は泣きそうになる。今になって体が震えてきた。
そんな樹に気付いた銀時は、頭を優しく撫でた。
「……どうして、分かって…」
「あんだけ騒がしかったら気付くだろォ」
煙管をふかす高杉。
「そうですか…」
刀を握っていた手の力を緩める。
「ありがとうございました」
「いやいや、樹ちゃんの方こそありがとうな?」
「へ?」
何のことだか分からない樹は首を傾げる。
「その刀」
「あ…」
「護ってくれたんだろ?」
銀時は優しげに微笑む。
「ありがとう」
あぁ、どうしよう。泣きそうだ。
「まぁ、逃げずにコイツに立ち向かったのは褒めてやる」
「晋ちゃん、そんな言い方はないんじゃねぇの?」
「フンッ」
足元に空き巣の犯人である天人が倒れているというのに、いつもと変わらず話す二人を見て樹は笑った。
守り護られ
(大切なものは、輝き美しい)
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あんまり高銀出なかったですね!!サーセン!!次回はあのマヨラーとサドが出ます。
さて、どうやって絡めよう。あと、高銀を軽くいちゃらぶさせたい←