long

□母は強し
1ページ/1ページ





ザッザッと草履を擦る音。それに合わせるように杖をつきながら歩く銀時に樹は声を掛ける。


「銀時様、大丈夫ですか?」

「平気平気。んな心配すんなって」


へらりと笑って返す銀時だったがその額には薄く汗が出ていて、樹はそれを視界に入れるとピタリと足を止めた。


「樹ちゃん…?」


いきなり止まった樹に銀時は不思議に思いながら名前を呼ぶ。


「銀時様、私お団子が食べたいです」

「へ?」


まさか樹がそんなことを言うとは思っておらず銀時はキョトンとした。そんな銀時に向かい合うよう体を反転させ樹は銀時と目を合わせる。


「私の我が儘です。駄目ですか?」


そう言ってちらりと近くの茶屋に目線をやる樹の意図に銀時は気付き優しく笑った。






「はい、みたらし三本ずつね」


まいど、と置かれた皿にはみたらし団子。その皿から一本手に取り口へと運ぶ。


「最初はどちらから行かれますか?」

「そうさなぁ、ババアんとこから行くかね」


パクリとみたらし団子を食べる。
うん、おいしい。


「にしても久しぶりだなぁ…」


しみじみと銀時は言葉を発した。

今日はリハビリも兼ねて銀時の知り合いたちに顔出しに来ていた。先日訪問してきた土方と沖田もそんなことを言っていたのでちょうどいいだろうという考え。

しかし、以前よりは回復したとはいえ銀時の左足はまだ長時間の運動には耐えられない。その付き添いとして樹は銀時と共に歌舞伎町へと赴いていた。


『銀時のこと頼んだぜ』


屋敷を出る前に高杉から言われた言葉。

銀時との関係が知られたとはいえまだ面識も少なく自分が共にいたら気を遣わせてまともに銀時と話が出来ないだろう、と話す高杉に銀時が密かに顔を歪めていたのを樹は知っている(おそらく高杉も気付いていた)。


(相変わらず不器用なお二人だ)


みたらしのしょっぱいタレを味わいながら樹はこっそり溜め息をついた。







茶屋を後にしお登瀬のスナックへと向かう。歌舞伎町に近付くにつれ道中、銀時は何度も多くの町民たちに声を掛けられていた。銀時も久しぶりに会う顔触れに顔を綻ばせ一人一人と相手をしていく。

そんな様子を後ろで見ていた樹は本当に銀時は歌舞伎町の人達に好かれ、頼られていたのだなと思った。

しかし、これでは何時まで経っても目的地には着かない。意を決して銀時へ先を急ごうと促そうとしたとき。


「なんだいなんだい。妙に人が集まってると思ったらお前だったのかい」


呆れを含んだ、けれど優しい母のような声が聞こえた。そうして、そちらに目線を向ければ。


「…よお、久しぶりだなあクソババア」

「元気そうだね、馬鹿天パ」


歌舞伎町の女帝、お登瀬の姿があった。







フゥと紫煙が空中を舞う。白い煙はそのまま天井へと上り自然と霧散した。


「どうだい、体は?」

「ぼちぼちだな。ここまで歩いて来れるくらいに回復してる」

「良かったじゃないのさ」

「まあな。つうか、たまとキャサリンが見当たらねえな」


お登瀬に出されたお茶を飲みながら店をキョロキョロと見渡す銀時にお登瀬は答える。


「二人にはちょっと買い出しに行って貰ってるんだよ」

「ふーん」

「それはそうと、アンタ旦那はどうしたんだい?来てないのかい」

「ブッフゥウ!!」


お登瀬の予想外の言葉にお茶を吹いた銀時はじと目でお登瀬を睨むが当の本人は澄ました顔で煙草を吸う。


「旦那じゃねえよ、クソババア」

「旦那だろう、あたしから見ててアンタが旦那ってことはないね」

「どういう意味ですか、コノヤロー」


どこか不機嫌そうに口を尖らす銀時を見てお登瀬はおどけたように肩をすくめる。


「ま、別にそんな事はどっちでもいいんだけどね」

「俺が良くねえ」

「そう不機嫌になるんじゃないよ、まあ今日来てないんなら今度二人ででも来な。そん時あたしの目にかからないようなら旦那とは認めないよ」


そう認めない。
旦那の墓から拾ってきたときから、ずっとずっと見てきた銀色の男。
新しい荷を背負いそれを護るためなら、自分のことなど顧みなかった。

もっと自分を大切しろと何度思ったことだろうか。

昔はそんな男を上手く手綱を引いていたのはこいつの旦那だと二人の幼馴染みから聞いていた。当時の事情や当人たちの気持ちなど知らない。けれど八つ当たりに近いがどうして手を離してしまったのだと恨めしく思った。

時がたち、やっと再び共にいられることになったがまだ自分は認めない。
もう二度とこの男から傍を離れないと確信してからでないと。

もうこの男は自分の息子同然なのだから。


「挨拶もできないようなヘタレじゃ見込みなんてあるはずもないがね」


そう言い切るお登瀬に銀時はケタケタと笑いこれにはさすがの樹も笑わずにはいられなかった。

鬼平隊の総督、はたまた過激攘夷派として恐れられていた高杉をこんなにも簡単に足蹴にしてしまうお登瀬は肝が据わっている。


「こりゃ高杉、ハードル高そうだな」

「銀時様、その言葉は高杉様を旦那様だと認めてるも同義語ですよ」

「あ!?ちっ、違うって!これは言葉の文っつうか…!!」

「無意識ですね、わかります」

「お願いだから、銀さんの話聞いて!」


コントのような二人の掛け合いを見ながら、お登瀬が『案外、大丈夫かもしれないねえ』と一人笑っていたのを二人は知らない。












母は強し
(まずは、挨拶が基本でしょう)









***********
お登瀬さんの回!
お登瀬さん好きなんです^^
何だか長編書いてると後半が樹ちゃん影薄くなってしまう。上手く絡められるようになりたいです。
次も顔出し話。吉原組出したい。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ