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□ゆらゆらり
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猫になりました。
「『猫になりました』じゃねェエエエ!!!」
屋敷の庭で一匹の白い猫がたしたしと地面を叩く。自分では思い切り叩いているつもりでも実際はそこまででなく、どこか微笑ましく感じるが当の本人(本人と表現していいものか甚だ疑問だが)はそれどころではない。
「ぇええええなにこれ誰これヤダこれなんでまた猫になっちゃってんの俺ェエエ別にまた猫の墓に立ちションなんてしてねぇしそもそも屋敷からも出てないしどゆことぉおおお」
白い猫、もとい銀時はワアッと頭を抱えた。
部屋でのんびりとジャンプを読んでいれば、樹から昼食の準備が整ったと伝えられ居間へと行こうと襖を開けた瞬間、突然意識が遠くなりそのまま視界は闇に染まった。
そうして、先ほど気付けばいつかのような白い猫『ギン』になっていた。
(とりあえず、屋敷に…!)
そう思い立ちすくっと身体を起こす。しかし猫になっても左足の怪我そのままらしく上手く歩くことが出来ない。
(チッ、上手く動かねえ…)
「オイ、そこの天パ猫」
「天パ馬鹿にすんじゃねえええ!!!」
後ろから掛けられたら言葉に思わず条件反射で振り向いて反論する。
って、ん?天パ?……つうかさっきの声って……
覚えのありすぎる台詞と声に固まれば、目の前に一匹の黒猫。紫がかった黒い艶やかな毛並みに鉄色の隻眼。その猫からは嗅ぎなれた紫煙の香る。
「猫になっても、それは相変わらずかァ?」
「たっ…!高杉!!?」
「おう、やっぱり銀時か」
まさか高杉まで猫になっているとは思わず銀時はその紅い瞳を見開く。
「えええええ!?なんで、テメーまで猫になってんのぉおお!!?」
「知るか」
ふんっと鼻を鳴らし銀時を一瞥する。
「九重に昼の用意が出来たってんで、部屋出てこうしたらいきなり意識が遠くなってなァ。気付けばこのザマだ」
高杉は訳が分からないと溜め息を吐く。どうやら猫になる直前の出来事は銀時とそう変わらないらしい。
「つかどうするよ、コレ。こんなんじゃ、誰も気づかねえぞ」
以前、共に猫になったことのある桂が来ればいくらか望みはあるかもしれないが、そんな都合の良いことが起こるとも思えない。
「…とりあえず、屋敷に入って部屋の方に……」
行ってみるか、と高杉が言おうとした時。
「銀時様ー?高杉様ー?どこにいらっしゃるのですかー?」
「い、樹ちゃん…!」
廊下を歩きながら自分たちを探す樹の姿を視界におさめる。昼食の準備が出来たと伝えたはずなのにいつまでも二人は来ず、部屋を覗けばいない。一体、どこに行ったのだと樹が疑問に思うのも仕方がなかった。
『なーう!(樹ちゃん!)』
名を呼んでみるも口から出るのは、可愛らしい猫の鳴き声だけ。それに気付いた樹は足を止め庭へと視線を向けた。
「……猫?」
不思議そうに首を傾げる樹に銀時は必死に近づきアピールする。
『にゃにゃーう!にゃう、にゃう!なーう!(樹ちゃーん!俺だよ、俺!銀さんだよ!)』
「なんで、こんなとこに猫が……」
不思議に思いながら樹は庭へと出てくる。
『にゃうにゃにゃーう、にゃうぅ…(気付いて、樹ちゃんん…)』
『ななーう(いや、気付かねえだろ)』
銀時の言葉に容赦ない台詞を浴びせる高杉。そんなことをしている内に樹は銀時たちの前へと足を曲げる。
「お前たち、どこから入ってきたの?」
そう言って銀時の頭を撫でる。樹は触っても逃げない猫に思わず口を綻ばせた。
『にゃうぅう…(樹ちゃんん…)』
気づいてもらえない悲しさから銀時は弱々しい鳴き声を出す。その時、銀時の腹からぐーきゅるるる…と腹が鳴る。
「お前…お腹減ってるの?」
可笑しそうに笑う樹に銀時はいたたまれなくなり思わず顔を伏せる。
『うあああ、恥ずかすぃー…』
『はっ!馬鹿が…ぐーきゅるるる』
と銀時を馬鹿にしようとした高杉だったが、その高杉の腹からも先ほどの銀時と同じように腹が鳴る。
『……………』
『ぷぷっ……』
「お前もだね」
ふふっと樹は笑うと「ちょっと待っててね」と銀時たちに言い残し屋敷へと入っていく。暫く待てば、樹は手に煮物を持ち戻ってきた。
「昨日の残り物だけど、これで勘弁してね」
それともお前たちにはちょっと濃すぎるかな?と言う樹をよそに銀時は煮物へと口を近づける。
『いやいやありがたいよ、樹ちゃん。流石だわ』
『オイ、銀時もっとそっち寄れ。食いずれえだろが』
『え、なに、高杉も食べるの?』
『本当はこんな地面で食いたかねえがなァ。腹に背はかえられねえ』
『ふーん…って、あっ!それ俺の里いも!』
『ふん、んなもん知るか』
『こんの野郎ぉおお』
喧嘩をしながら煮物を食べていく二匹を樹は楽しげに見つめていた。
「ねえ、お前たち。私の探している方たちを知らないかい?」
銀時様と高杉様って言うのだけれど。
『だから、それ俺だよ!』
『九重……気付け』
「って、猫に聞いても分からないか」
『樹ちゃーん!頼むから、目の前に!目の前にいるよぉおお!』
銀時が必死に訴えるも樹には猫がにゃあにゃあ鳴いているにしか聞こえない。その内、樹は縁側に座り銀時を抱き上げる。
「あぁ、やっぱり」
銀時の瞳を覗き込むようにすれば樹はそんなことを呟く。
「お前、銀時様に似ているね」
『い、樹ちゃんんん!それ!それ正解ィイイイ!』
「そっちの黒猫くんは高杉様に似ているね」
『そりゃあ、本人だからなァ』
どこか的外れな返事をする高杉はひょいっと縁側に上がり樹の隣へ腰を下ろす。銀時はというと相変わらず樹に頭や喉を触られていた。気持ちいいのか案外、満更でもなさそうだ。
「お二人もいないし……ちょっと、お前たち話し相手になってくれるかな?」
『『にゃーう』』
返事のように鳴いた二匹に、樹は顔を綻ばせながら話し出す。
私がお仕えしているお二人はね、とても素敵な人たちなんだよ。使用人である私に気軽に話してかけてくれたり、一緒にご飯を食べたり。
この前も、おやつを少し分けてくださったりしてね。一緒に食べた方が美味しいからってお饅頭を半分こしたんだよ。
それから、私が料理をしていたら指を切ってしまって。それに気付いたあの方は黙って絆創膏を渡してくれたんだ。不器用だけどとても優しい方なんだよ。
あぁ、でも不器用なのはどちらも一緒かな。お互いが大切なのに上手く伝えることが出来なくて。私はそんなお二人を見ていると、酷くもどかしくて仕方がないんだ。
素直になればいいのにっていつも思っているんだよ。まあ、素直じゃないのがある意味あの方たちなんだけど、やっぱり…ね。
お互いが大切ならやっぱり偶には素直にならなきゃ。
……でもね、やっぱりそれがあの方たちであの方たちなりの愛情表現なのかなって最近、思うんだ。
そんなお二人が私は大好きで、大切で仕方ないんだよ。
「ふふっ…猫に何を話してるんだろうね、私は」
きっとお前たちがあの方たちに似ていたがらだね。きっと。
そう笑う樹に銀時と高杉は視線を向ける。
「さて、もう一回、お二人を探さなきゃね。お前たちも、もうお行き」
二匹仲良くね。
そう言って樹は屋敷へと戻っていった。
『……高杉』
『……なんだ』
『……俺、さ』
『…………』
『……お前のこと、ちゃんと…好き、だからな』
『…俺もだ』
『…………』
『…………』
『……今度、樹ちゃんと甘味屋行こう』
『……その前に、九重連れて昼飯食いに行くか』
『…おう』
暫くして、いつの間にやら元に戻った二人はどこか恥ずかしそうにしていたのを、樹は不思議そうに見ていた。
ゆらゆらり
(ある使用人の本音)
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番外編。なんだか、樹のキャラが(^q^)
すみませんorz