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□僕と君が過ごした時を思い出しながら見送って 中編
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俺達は後日忍の両親に挨拶に行った
忍のお腹に赤ちゃんがいること、そして俺が忍を残してもうすぐ死ぬことを伝えに
俺と忍の同棲を忍の両親は知っていて、遅かれ早かれ結婚するだろうと思っていたらしく、結婚については大喜びしてくれた
だが俺の病状について話すと、表情は一変した
可愛い自分の娘が若くして未亡人になってしまうことや一人親にさせることが許せないことは、俺も容易に理解できた
だが、だからこそ、忍と結婚し、せめてお腹の子供が産まれるまで、一日でも長く、懸命に生きようと誓ったことを伝える
そして忍も目に涙をいっぱい溜めながら説得する
最期まで側にいると誓ったの、と
暫くして、忍のお父さんが静かに口を開いた
「人は皆いつか死ぬ
…明王君の場合、それが早く訪れてしまう
それがわかっていたら尚更、わずかな時間を愛しい者と共にしたいと思うのも当然だ
まして忍自身も明王君と一緒に居たいと言っているんだ、私たちが二人を引き裂く権利なんてあるはずがない」
「あなた…!」
「お父さん…」
「…明王君、忍を愛してるか?」
「はい、愛してます」
「そうか…明王君、娘を頼むよ
そして一日でも長く忍の側にいてあげてほしい」
「っ…有難うございます…!」
「お母さんは…?」
ずっと反対してた忍のお母さんも納得してくれたのか、お父さんの意見は間違ってない、寧ろ正しいわ、と言って忍を抱き締めた
忍の両親の次は俺の両親の番だが、ここ数年連絡を取っていなかったが連絡先は昔のままだった
電話をすると、はい、不動でございます、と懐かしい声が受話器から聞こえ、母さん、と呟くと電話の主が俺だとわかり、母さんは泣いていた
…こんなにも心配かけていたんだな、俺は
何歳になっても親子であることに変わりないと漸く気付かされた
そして報告のために一回愛媛の実家に帰る算段をつけて愛媛に向かうと、アイツーーーー父さんもいた
そして二人に報告すると母さんは泣き崩れ、父さんは下をむいてだまってしまった
「母さん、」
「あ…きお…うぅ…っ」
「母さん、人はいつか皆死ぬんだ
」
「そう…だけど…明王…どうしてこんな…早く…」
「母さん、俺だって死にたくない
だから一日でも、一分一秒でも長く生きるから、だから」「明王」
ずっと黙っていたままだった父さんは鞄の中から通帳を持ち出した
通帳は俺名義になっていた
「これ…」
「今まで沢山迷惑をかけた
…これは少しずつ貯めたものだ
お前が結婚するときに渡そうと思ってな」
「…父さん」
「久し振りだなぁ、お前に父さんと呼ばれたのは
…おめでとう、明王」
「…父さん」
「…明王、人は二度死ぬといわれる
一度目は肉体の死、二度目は…なんだかわかるかい?」
「いや…?」
「二度目は記憶の死だよ」
「記憶の死…?」
「忘れ去られしまうこと…人の心から不動明王がいなくなることだよ
だから明王、少しでも長く生きて、少しでも多く思い出を作るんだよ
…忍さん、といったかな」
「はい」
「聞けば中学からの付き合いだそうだね?」
「えぇ、そうです」
「明王とはじめてあったとき、何を思ったかい?」
「…自分自身を守れる強い力が欲しい、自分を認めて欲しいって思ってるんだな、と」
「おま…」
「そしてこれは大分経ってから思ったことですが、愛すること、愛されることを知らない、いえ、知ってはいましたが少し歪んだ形で受け入れたんだな、と思いました」
…明王…
…あなたは偉くなって…人を見返しなさい…
昔はこの言葉に縛られて強さだけを求め、今は大切な仲間たちを傷つけた
でもあれは自分が弱いが故に引き起こしたことだ
母さんのせいでも、父さんのせいでもない
「でも、強さの本当の意味をFFI
で知ったみたいです
あの大会がなかったら今の彼はいません」
「…忍さんはよく明王のことを観ているね…
忍さん、明王のことを頼みます」
「はいっ…!」
こうして俺はようやく母さんと父さんと本当の意味で和解した