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「うぇ…げほっ…ごほっ…ハァ…ハァ…」


ひどい吐き気
なんでも臨床実験の副作用らしい
おなかは空いてるんだけど食べたら吐いちゃうから
水分もダメだから栄養分のに加えて生食の点滴も追加されてしまった



吐き気の波が収まってベッドに沈み込み、生理的に出た涙を拭う


「明王に悪いことしちゃったなぁ…」


入院が多くて友達を作れないわたしの、数少ない友達なのに
やっぱり、病気のこと話さなければ良かった…
そう思っていたらコンコン、とドアを叩く音がした
吐き気をこらえて体を起こし、小さな声で「どうぞ」と返せば、意外な人物がそこには立っていた



「佐久間くんに…源田くん…」
「久しぶりだな、朔宵…って顔色悪いぞ?」
「大丈夫か?」
「副作用がね…ちょっと…」
「悪いな、調子悪そうな時にきて」
「ううん、来てくれて、有難う
2人が来る、なんて思わなかったから」


佐久間くんと源田くんは四年前に初めて出来た友達だ
2人はFFで怪我をして入院していたが、いつの間にか退院していた
そう思っていたら佐久間くんだけがボロボロになってまた入院してきて以来、連絡を取り合う仲になった
そしてたまにお見舞いにきてくれる
2人に会って、少し吐き気がおさまってきた
病は気から、なんて言うけれど、確かにその通りだと思った


「チームメイトが怪我で入院してるんだ」
「そうなんだ…」
「ま、ヒビ入っただけだから直ぐに退院できるらしいが一応…な」
「…あ、2人はどうなの?調子は」
「…バッチリさ
な?源田」
「…あ、あぁ」


目線を下げる源田くんと、ちょっと悲しそうな顔をしながら笑う佐久間くんを見て、瞬時にわかった


…佐久間くん、
きっと四年前の足の怪我のせいだろう
悪いことしちゃったな、2人に
沈黙が痛いので無理やりだが話を変えてみる



「あ…こ、今度2人が出る試合、応援に行きたいな」
「来れるのか?」
「外出許可は貰えると思う」
「そっか…よし、じゃあ今度の日曜日に試合があるから来いよ!
ベンチで俺たちの試合、見ててくれ」
「いいの!?」
「勿論!」
「日曜日が待ち遠しいなぁ」
「俺たちもだ
…そろそろだよな、面会時間」
「…そだね」
「悪いな、練習後だとあんまり入れなくて」
「…いいの!来てくれるだけで嬉しいから
今日は有難う」



じゃあな、と行って病室を出て行く2人をベッドの上から見送る
夜の闇が夕陽を飲み込もうとして、幻想的な色をした空を見上げながらわたしはため息した




「ごめんね、佐久間くん…ごめん」



出来ない辛さは私が一番わかっているはずなのに
なのに佐久間くんを傷つけてしまった

なのに明るく接してくれる佐久間の優しさに罪悪感を抱く




「そういえば今日も、明王来なかったなぁ…」


明王に病気の話をしてからかれこれ3日が経った

あの日、ほんとは検査なんてなくて
その次の日にした検査の副作用で昨日からずっと一人ベッドの上で
お母さんとお父さんは仕事でなかなか来れないから
どことなく寂しくて不安で
誰でもいい、そばに居て欲しい



この一言が言えたら、この寂しさは拭えるの?

そう自問自答しながら私は再びため息をついた
 

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