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□せんせいとわたしと いち
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総合病院シンドリア国際病院の元は循環器科医だが今は小児科医として働く俺は外来患者の診察が終わると入院している患者のもとへも向かうのが日課になっていた
患者の中でもとりわけ、小児病棟に入院中の子供たちにはできる限り接するよう努力する
この病院に入院している子供たちは皆色々なことを我慢して治療を受けている
彼らと少しでもふれあう時間を長くし警戒心を解いてもらい、治療に支障をきたさないため……というのはこじつけで、子供たちと遊んでやりたいという気持ちの方が強かった
その甲斐あってか大抵の子供たちはなついてくれるし、意欲的に治療に取り組むようになった
…そう、一人を除いて
俺のPHSが鳴ったのはお昼御飯を食べおえ、病棟へと足を運ぼうとしていたときでナースのヤムライハからだった
「先生…ジャーファルくんが…!」
「ジャーファルがどうした?」
「ジャーファルくんがまた抜け出しちゃったみたいで…病室にいないんです」
「わかった急いで向かう」
「お願いします」
ジャーファルが病室を抜け出すのはこれがはじめてではない
というか隙あらばいつも抜け出そうとしている
治療にも非積極的でよく看護師のピスティを泣かしているらしい
悪化して自力で体を動かせない時に治療し、回復して動けるようになると抜け出したりというのを繰り返している
ジャーファルの病気は拡張型心筋症で、心筋が薄く伸びてしまってポンプ機能が著しく低下してしまう病気だ
根本的な治療は移植だが、移植が行えない場合はバチスタ手術をすることになる
だがジャーファルは5歳(来月6歳になる)子供で手術するとしたら今はバチスタ手術しか方法はない
移植を第一に考え、今は手術に耐えられる体力をつけるためにも安静が第一なのだが…とため息をついて、ふっと見た先には探していた小さな男の子の姿があった
「やっぱりここか」
「…なんでわかるの」
「ん〜…勘だ」
「…」
ジャーファルが病室を抜け出す度に隠れている場所は屋上だったり、中庭だったりと場所はまちまちなのだが、共通している点はいずれも空が見える場所である
ジャーファルはよく空を見ていることか多いが、空以外にも壁や天井や木など、とにかくずっと見ているのだ
ただ見ているのではない
目の前にあるものを越えた遥か向こう側にある何かを見ているような気がするのだ
「さ、ジャーファル
病室に戻ろう」
「…」
「今朝ようやく熱が下がって検査の数値も良くなったのにまた悪くなったら」「せんせい」
ジャーファルが俺の言葉を遮りあの目でじっと此方を見る
「なんだ?ジャーファル」
「…もうほっといてください」
「ジャーファル…お前…」
もうじき6歳になる子供が言う台詞ではない
それどころかジャーファルはもっと子供らしくない言葉を俺に向けた
「わたしは…いらないにんげんだから…だから、このままほっておいてください」