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□せんせいとわたしと に
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「ジャーファル、なんでそんなこと言うんだ?」
「せんせいも、あのひとにいわれてるくせに」



あの人、というのはジャーファルの親のことだ
親と言っても、母親は継母なのだが


ジャーファルの出生は少し複雑で、ジャーファルの産みの母親はジャーファルを産んだ後に産後の経過が良くなく、亡くなってしまったのだという
父親はかの有名企業の社長で、正妻は別にいた
つまり、ジャーファルは私生児ということになる

正妻―――ジャーファルの継母は激怒しジャーファルを施設に預けようとしたらしい
が、父親が世間体を気にしてジャーファルを養子として迎えた、というのだ


しかし、正妻との子ではないジャーファルの扱いは決して良くなかった

外で遊ぶことも禁じられ、食事を一緒に取ることも許されず、身の回りの世話をしてくれるメイドとすら話すこともなく(後で聞いた話によると正妻がそのように命じていたらしい)、ジャーファルはいつも一人ぼっちだったという
誕生日でさえ祝ってもらったことがないというのだ





そんな生活をしていた ある日、ジャーファルは風邪をこじらせ肺炎になり、自宅では手当てしきれずやむなくここに運び込まれて心臓病が見つかった、というのがジャーファルが入院することとなった経緯だ




「俺はお前のお母さんに何といわれようとお前の病気を治すよ」
「それはせんせいがいしゃだからでしょ?」


ずっと部屋で本を読んでいたというジャーファルは普通の子供より賢いのが会話の節々からみてとれる



「んーそれもあるけど…それだけじゃない」
「ほかには?」
「一人の人間として、大人としてお前の病気をどうにかしたいんだ」
「は…?」
「ジャーファル、俺が思うにお前は2つの病気にかかってる」
「ふたつ…?」
「ああ
一つは心臓な
もう一つは…心だ」
「こころ…?」
「そうだ
ジャーファルは楽しいってことや嬉しいって思ったことあるか?」
「たのしい…?」
「俺はお前と話していて楽しいし、嬉しいぞ
お前は?」
「…わからない」




体育座りをしていたジャーファルは目を伏せ、悲しそうな顔をする
この子が内に抱えた傷は決して浅くはないのだろう





「いいか、ジャーファル
この世界には辛いことや悲しいこともいっぱいある
だがそれ以上に楽しい事や、嬉しいことがあるんだ
俺はそれをお前に教えたい」

ジャーファルは綺麗なグレーの瞳を精一杯開き、俺に尋ねる



「ほんとう…?」
「本当だ!
世界にはお前のしらないことで溢れてる!」
「せんせい、わたしは…しりたい
わたしのしらないことを、いっぱい、いっぱい!」
「約束しよう
俺が教えてやる!
だからジャーファル、お前さんも俺と約束してほしいことがあるんだ」
「なに?」
「まず勝手に病室を抜け出さないこと
具合がよくないと教えたくても教えられないからな
それから自分の気持ちをちゃんと相手に伝えること
約束できるか?」
「うん!」
「じゃあ指切りしよう」
「ゆびきり…?」


そうか、この子は指切りも知らないのか…
決して顔には出さずに笑顔をつくる



「自分の小指を相手の小指とクロスさせるんだ
こんな風に」
「それで?」
「それから、指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指切った!、これで指切りできたから指を離す
これで嘘ついたり約束破ったりしたら針千本飲まなきゃいけないだろ?
だから約束する時にこれを使うんだ」
「へぇ…」
「まぁ本当に針千本も飲む奴はいないけどな
さ、病室に戻ろう?ジャーファル」
「うん」





ジャーファルは俺が差し出した手をつかみ、立ち上がる
ジャーファルとの距離が少し縮まった瞬間だった

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