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□せんせいとわたしと さん
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ジャーファルはあの日を境に俺との約束を守っている
が、自分の気持ちの表現の仕方があまり上手ではないようで一進一退しているが、前より格段に良くなっていることは確かで喜ばしいことなのだが…





「具合はどうだ?ジャーファル」
「すこぶるわるいです」
「そうか!
ところでジャーファル、今のは」
「じゅだるくんがこういえばいいと」
「あのな、ジャーファル
それは具合が悪いときにいうことなんだ
今の具合については上々、とか変わってません、とかというんだぞ」
「うん」








同じ入院患者のジュダル(17)がジャーファルが変わってきて、更に俺がそうしていると知ってからあれやこれや吹き込んでいる
勿論故意的に
俺が困るのがそんなに楽しいか、あのガキ…





「せんせい、きょうはなにをおしえてくれるの?」
「あ、ああ
今日はこれだ」



そう言って俺は電子ピアノを取り出した
初めてピアノをみたらしく、ジャーファルは興味津々な様子だ



「これは?」
「ピアノだ」
「ぴあの?」
「そう、ピアノ
この白いところと黒いところを使って弾くんだ」
「ひく?」
「要するに、押すんだ
押してごらん」



コンセントをさし、電源をいれてやる

いいの?というジャーファルに笑顔で頷く
おそるおそる指を鍵盤にのせる
するとポーンと音が病室に響く




「わぁ…!」
「他の所も押してごらん」
「うん…!」



もってきてよかった、と他の鍵盤も楽しそうに指で弾くジャーファルをみて思う


「ジャーファル、上手じゃないか!」
「あのね、せんせい
もっと、もっとやりたい…!」
「そうか!
ジャーファル、これが『楽しい』ってことだ」
「たのしい…?…たのしい…!」
「ああそうだ!
もっとピアノで楽しいことしたいか?」
「うん…!」
「よしわかった!
じゃあ音階を教えよう」
「おんかい?」
「ジャーファル、今から俺が押す音をよく聴くんだ」
「うん」
「いくぞ、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ
この7つの音が音階だ
そしてこの7つを使って曲や歌は出来てるんだ」
「せんせい、もっとやりたい…!」
「それはまた明日な
もう寝る時間だ」




ジャーファルにこうして教えるのはたいてい夜、とりわけ消灯前が多い
本当は昼間に教えてやりたいのだがなかなか時間がとれないのだ




「もっと、やりたい…!」
「ジャーファル、今日遅くまで起きてやって、明日具合が悪くなってしばらくピアノできないのとどっちが嫌だ?」
「〜っ
…あしたにする」



偉いぞ、これはお前にやるからまた明日弾けばいい、と言うと、少し拗ねたような表情が晴れて笑みが顔をだす



最近少しずつジャーファルの笑顔が増えてきたことは喜ばしい



「おやすみ」
「おやすみなさい、せんせい」









さて、明日は何をあの子に教えよう
そう思いながら俺は帰路へと向かった

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