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□Y
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次の日、俺は朔宵の病室に行ってみたが、少し騒然としていた
数人の看護師がバタバタと器具や機械を持って出入りしていった





たまたま病室から出てきた水谷を捕まえて何かあったんですか、と聞いてみたら、なんでもちょっとした発作のようなものが起きてしまったらしい




ドアからその様子をちらっと見て、今日は無理だな、と俺は思い、病室を後にした





俺の入院生活もあと1日で終わろうとしていた
あの後また佐久間と源田と鬼道が見舞いにきた
鬼道は俺と同じ高校に通っていないのに顔を出しにくる
わざわざご丁寧なこった






「明日退院なんだってな」
「おかげさまで」
「日曜の試合には出れそうか?」
「あー…フルは難しいだろうな
聞いてみる」
「プレー出来るといいな、試合」
「あ」



何かを思い出したかのような佐久間に視線が集まる




「実はさ、その試合に呼びたい人がいるんだ」
「佐久間…」




何かを察した源田が佐久間にアイコンタクトすると2人は俺の目を見て言う





「ベンチで俺たちのプレーを見てほしいやつがいるんだ
監督には許可貰ったが…キャプテンは不動だから」
「来れるか来れないか、五分五分なんだけど…」
「…俺にとって、あの試合はある意味最後かもしれない」
「佐久間!」





窘めるような源田の視線を振り切って佐久間は話し続ける





「俺、医者に言われたんだ
プロになったとしても、他の選手と比べて選手生命が短いだろうって
…俺は迷ってるんだ
サッカーをやめて普通の職業につくか、それともサッカー選手になるか

「佐久間…」





真帝国時代の傷が佐久間の選手生命を短くしていたとは
時々足が痛むとは言っていたがまさか、こんな事になっていたとは





「俺がツラい時に支えてくれた奴に、プレーを見てほしいんだ
…そいつ自分が辛くても笑顔を絶やさないんだ
それどころか俺を励ましてくれて…
そいつ、今度海外にいっちゃうんだ
しばらく、もしかしたら一生会えないかもしれない
だから…」
「わかった」



ハッと顔をあげる佐久間にアイコンタクトで返す
すると佐久間は泣きそうな顔で笑いながらうなづいて、有難う、と言った








俺なんかに有難う、って言うことないのに
俺はそういうの言われる資格なんてないのに
佐久間と源田を見送って、俺はため息をついた
すると鬼道が目敏く見ていたらしく、ちょっと話さないか、と言ってきた


「何?鬼道クン」
「不動…お前気にしてるだろ」
「…ハァ
やっぱり鬼道クンにはかなわないわ」
「不動、あれはお前のせいじゃない
だからお前が気に病むことは…」
「鬼道クン」
「…何だ」
「技の指示をしたのは影山だった
でも二人をこっちに引き込んだのは俺なんだ
だから…」
「だから俺には責任がある」
「…あぁ」
「…」
「時々夢見るんだ
あいつらが、影山が、お前のせいだって言う夢」
「不動…」
「さいご佐久間に首締められて目がさめるんだ
…俺はあいつに、佐久間に有難うって言われる資格なんか…」
「不動」



鬼道クンが話を遮って俺の目をみる




「お前はあいつらのキャプテンなんだ
もし佐久間たちが不動をそう考えていたら、キャプテンを任せてはいなかっただろう」
「…」
「あいつらはお前を憎んだり、恨んだりしていない
佐久間自身が気にしていないんだ、だからお前が気に病む必要はない」
「…でも」
「お前はキャプテンなんだ、あいつらの」



また明日、迎えに来る
そう言って鬼道クンは帰っていった





キャプテン、か
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