テニスの王子様
□雪の中で
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「…雪だ…」
ふわりと掌に舞い降りた雪は、すぐに溶けて消えた。
こんな日に、ひよりが外に出てなきゃいいけど……
「あ、周助くーん!おかえりなさい」
「おかえりなさい…じゃないよ。また入院したいのかい?」
はす向かいの玄関から、ぴょこっと人が顔を覗かせる。
幼馴染みのひよりは、小さい頃から病弱だった。
そのせいで、入退院を繰り返していた。
「こんな薄着で外に出て…ほら、中に戻ろう?」
「えー?…雪、降ってきてるのに?」
「だから戻るんだよ…」
にこにこと雪に微笑むひよりは、どこか儚げで、粉雪の様に消えてしまいそうだった。
僕は自分のマフラーを外して、ひよりの肩にかける。
「一緒に戻ろう?」
「ん〜…周助くんが一緒なら、いいよ」
無意識なんだろう、ひよりは僕の手を取って、意気揚々と家に戻る。きっと、僕がどれだけドキドキしてるかなんて、想像もしていないのだろう。
道は険しいな…。
「あ、そうだ!新しいサボテン買ったから、周助くんに見せてあげる!」
「それは楽しみだなぁ」
「でしょでしょ!早く…っくしゅん!」
ほら、またくしゃみしてる。
これだからひよりは目が離せないんだ…。
まぁ、僕がいる限り、目を離したりしないけどね。
ずっとそばで、ひよりを守ってあげるよ。だから───
───僕のこと、好きになって。
僕の小さな願いは、ひよりには絶対秘密。
静かに舞い降りる雪と、僕だけが知ってればいいのさ。
*END*
2013/02/07 加筆修正