:)不定期連載.

□:)君だけ 2
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ガタンゴトン…

「っふぅ…」

なんとか電車に間に合って、じんわり滲む汗を拭う

春だからって、すぐ夏になっちゃうんだもんな…

ブレザーを着てこなくてよかった、と頷いていた時、


「琉那! おっはよ!」

バシッと強い平手打ちが背中に降ってきた。

この声と力の強さは…

「いっ…たいよ、咲」


朝から元気な師匠だ。

振り返って背中をさすれば、ごめんごめん。なんて軽い謝罪をされて
私は軽く師匠を睨んでみる。

「朝から窶れてますなぁ。原因は昨日の委員会ですか?」

ニヤニヤと私の反応を面白がる師匠は、おもむろに私の顔を覗き込んでくる。


委員会、という言葉に、私の記憶は一気に引き戻された。


「あ。…そう、私さ。笹木先生に嫌いって言っちゃった」


「っはああぁ!!?」


電車の音に負けないほどの師匠の叫び。

私は慌てて師匠の口を両手で塞いで、
朝のサラリーマンやOLさんにぺこぺこと頭を下げた。


「ちょっ…何それ、好きとか言われたの!?」

「いやいや、違うってば! ただ、なんか…思ったこと言っちゃった」

「何それ、ますます意味分かんないわ。降りたら覚悟してよね」

眉間に皺を寄せ凝視する師匠の顔は私を掴んで離さず、
思わず「うっ…」とたじろいでしまった。








「…へ? 俺、なんかした…?」


昨日の夕暮れを思い出す。

嫌いと言われた先生は、
きょとんとして状況を飲み込めない表情。


「別にしてないですよ。ただ、…先生見てると、ムカつくんです」

視線を逸らせずに、私は言葉を紡いで

…感情が爆発しそうだった。


先生にこんな言葉使いしちゃダメとか

初対面でなんだって思われるとか


そんな事は一切頭になくて

気付いたら私は先生を睨んでた。



「っく…くくっ、あははは!」

「!?」

突然の先生の笑い声に、私はその場に固まってしまった。
すぐそこにいるのは、腹を抱えて笑う笹木先生。


「っあー…おっかし……ほんと、橘って…くくっ…」

言葉を紡ぐ間にも笑いをこぼす先生

私は終始顔を歪めることしかできなくて、
思わず口を開いた時には

「…何か、可笑しい事言いました?」

なんて、叱られた子供のようにふてくされてしまった。


「いや、別に? ただ、いきなり嫌いなんて言う奴に初めて会ったから」 

あー、笑った。と目尻に溜まった涙を拭う先生

その言葉は、初対面の人に好きしか言われた事がないって事かな。


私が返事をしないままその場に立っていれば、
先生が白衣を揺らしながら私に近づいて


ぽん、と

私の頭を撫でた。


「いいね、橘。お前は何か周りとは違う。

面白ぇ…嫌いで上等」


まるでそれはゲームとでも言うように


先生は意地悪く笑った。
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