monotone rainbow
□Second:White
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「クレイズー!」
クレイズは、名前を呼ばれて振り返った。後ろから、金髪の快活そうな青年が走ってくる。ティーダだ。
「ティーダ、何だ?」
「ん〜、なんとなく、ッス。」
「…珍しいな。」
ティーダはクレイズの隣に並ぶと、走るのを止めてゆっくりと歩き出した。
クレイズは、自分より身長の小さなティーダに合わせて、少しだけ歩くスペードを遅くした。
「クレイズは暇じゃないッスか?この世界。」
ティーダはクレイズに問いかけた。純粋な疑問らしい。
「…ああ、そうだな、とても退屈だ。」
「やっぱりそうッスよね。こっちにはじめじめした奴らばっかりッスから。」
ティーダは、苦笑いしながら言った。ひどくやつれた、痛々しい表情だ。
それもその筈、戦いも終盤に差し掛かっているのだ。疲れて当然だ。
クレイズは、問い掛けてみる。虚言だとは知りながらも。
「なぁ、俺は変えれると思うか?」
「…何を、ッスか?」
急にくだけた表情から、真剣さと真摯さを帯びた顔へと変わったクレイズを見て、ティーダも真面目な、でもどこか混乱の混じった顔へと変わった。
「ん〜、世界を、輪廻を?」
「はぁ…よく、分かんないッス。」
「もっと言うと、
混沌だとか秩序だとか、
戦いだとか戦士だとか、
イミテーションだとかひずみだとか、
正常だとか狂気だとか、
お前とか俺とか、
いっぱい。」
「つまり全部じゃぁないっすか…」
苦笑い再び、である。ただし「笑」のほうが圧倒的に多いが。
クレイズの狂気を、断片的にだが垣間見る事が出来た、そんな気がした。
「まぁ、俺一人で世界を変えれるなら、安いもんだろ?」
しかし、クレイズの言を聞いて、次にティーダがみせたのは、悲壮な顔だ。
全く、よくこうもコロコロと表情を変えれるものだ、クレイズは場違いな感心をしながら、次の言葉を選ぶ。
「アンタ、死んだりなんて、しないッスよ、ね?」
不意に呟かれたティーダの言葉。きっと、戦いに対する――本心だ。
「さぁ、ね。『死』なんて、滅多に自分が決めれることじゃないだろ。俺は明日、イミテーションに切られて死ぬかもしれないし、
同胞に裏切られて死ぬかもしれないし、
もしかしたらカオスに喰われてるかもしれない…
明日のことなんて誰にもわかんねーからさ。」
「…自殺とかは?」
ティーダが神妙な顔つきで訪ねてくる。今度は、恐怖が見えた。
「大丈夫、俺は、この世界が好きだから、さ。」
「退屈なのにッスか?」
「退屈なんかは嫌いになる理由にならないな。」
「ふ〜ん?」
「ティーダ、嫌いになんかなんなよ。そしたらきっと、もっときついぞ。」
「…そっか。」
よくわからない、ティーダはそう思ったが口に出さないでおく。それはもう、出会ったころから、この男の戯言に付き合わされて来たのだから、言い出したらキリがないのだ。
だから、いつかわかるだろう、くらいの気持ちでいつも聞き流していた。
いつか、が案外近いことには気づかずに。