†短編†
□やさしいおひと(勝呂×志摩)
1ページ/5ページ
それは1ヶ月前のこと。
子猫さんはお風呂に行っていて、寮の部屋には宿題をしている坊と、愛読本を読む俺が残っとった。
宿題が一区切りついたのか、坊は、立ち上がり、俺が寝転ぶベッドに腰かけてきた。
今日の坊は何かおかしい、そう朝から想っていた。顔を背けられて拒否られたかと思えば、急に距離を縮められたり。
だから、もし何かあるなら言って欲しくて、俺も起き上がって、坊の隣に座る。
それでも坊は口を開いてくれないので、仕方ないなぁと溜め息をついてから俺から話し始めた。
『どないしたんですか、今日の坊は何やおかしいですよぉ?俺なんかしましたかいな』
『ちゃう、お前は悪ぅない。・・ただ、そのやな』
『・・坊?』
ガシッ
『へっ!?』
いきなり二の腕をギュッと掴まれ、坊と向き合う形にされた。
そして、坊は言うた。
『しっ、志摩!俺とつ、つき、おうて・・くれへんか?』
『・・・ぼ、ん?意味わこうて言うてはるんですか?』
『アホ、わからんこと言うわけあらへんやろ』
アホと言われたのに、その言葉は純粋な響きしか含まれてなく、坊の優しさが垣間見えた。
けど、坊と俺には、〔勝呂〕と〔志摩〕の主従関係がある。
志摩家の末っ子とは言え、坊を守る役目がある俺にとって、これを承諾するのはタブーなのでは無いかと、素直に思った。
だから俺は言った。
『無理ですよ、坊。俺らはそんな関係にはなってはいけへん。あんさんかて分かってることやろ?』
『それは、それや。俺が志摩を好いとることに、何も関係あらへん』
『坊、でも・・』
『明陀も、お前も、みんな俺は守ったる!・・せやから、志摩の気持ちで返事せぇ』
本当のことを言えば、俺も坊のことを好いとった。
けど、まだ、言うていいか分からんくて、視線を落としてしまう。
それを別の戸惑いだと勘違いしたのか、坊は俺を抱き込んできて。
『嫌ならえぇんや、そう言え。お前が女好きなんは知っとるし、俺んことお前がそんな風に想ってないのも承知の上や。せやから、無理なら無理でえぇ。別にお前んこと嫌いになったり、守らんくなったりせえへんから正直に答えてや』
別にそんなこと考えてなかったし、逆に突き放されたように思えて、俺は話すことに決めた。
『・・何が承知の上ですか。俺の気持ち全然わこうとりませんやん、坊は』
『・・・志摩?』
坊が抱き締めてた体を少し離し、俺の顔を覗き込んできた。
『俺の気持ち、勝手に作らんといてください。他の誰かならこんなこと言いません。けど、坊、あんさんには、そないなこと言うて欲しゅうないんですわ』
『志摩・・』
『・・俺かて、坊のこと、好いてます。坊が言うてる、その意味で。せやけど、同時に怖いんですわ。その関係になって、余計坊を困らせるやもせん。重荷になりとう・・グスッ、ないんや』
いつの間にか体が震え、泣いていた。それでも言葉を続けた。
好きな人と、結ばれたくて。
『坊は、それでも、俺んこと、想うて、くれはりますか?』
『・・当たり前や、アホ・・・好きやからな、廉造。ずっと放さへん、守うたるから、よう覚えとき』
久しぶりに発せられたその名前が自分のものだと思うと嬉しくて、いつもの仮面のような笑顔やない笑顔で、俺も好きな人の名前紡いだ。
『・・竜士さん、好き、ギュッてしてください。出来ればチューも』
『・・仕方ない奴やなぁ』
チュッ
唇に軽く触れるだけのキスをされ、更に抱き締められれば、もう俺は竜士さんのもんで、竜士さんは俺のもんなんやなぁと思わずにはいられなかった。
これからが楽しみで仕方なかったのだ、あの時は。
、