†短編†

□やさしいおひと(勝呂×志摩)
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それは1ヶ月前のこと。


子猫さんはお風呂に行っていて、寮の部屋には宿題をしている坊と、愛読本を読む俺が残っとった。

宿題が一区切りついたのか、坊は、立ち上がり、俺が寝転ぶベッドに腰かけてきた。

今日の坊は何かおかしい、そう朝から想っていた。顔を背けられて拒否られたかと思えば、急に距離を縮められたり。
だから、もし何かあるなら言って欲しくて、俺も起き上がって、坊の隣に座る。
それでも坊は口を開いてくれないので、仕方ないなぁと溜め息をついてから俺から話し始めた。


『どないしたんですか、今日の坊は何やおかしいですよぉ?俺なんかしましたかいな』

『ちゃう、お前は悪ぅない。・・ただ、そのやな』

『・・坊?』

ガシッ

『へっ!?』

いきなり二の腕をギュッと掴まれ、坊と向き合う形にされた。

そして、坊は言うた。


『しっ、志摩!俺とつ、つき、おうて・・くれへんか?』


『・・・ぼ、ん?意味わこうて言うてはるんですか?』

『アホ、わからんこと言うわけあらへんやろ』

アホと言われたのに、その言葉は純粋な響きしか含まれてなく、坊の優しさが垣間見えた。

けど、坊と俺には、〔勝呂〕と〔志摩〕の主従関係がある。
志摩家の末っ子とは言え、坊を守る役目がある俺にとって、これを承諾するのはタブーなのでは無いかと、素直に思った。

だから俺は言った。

『無理ですよ、坊。俺らはそんな関係にはなってはいけへん。あんさんかて分かってることやろ?』

『それは、それや。俺が志摩を好いとることに、何も関係あらへん』

『坊、でも・・』

『明陀も、お前も、みんな俺は守ったる!・・せやから、志摩の気持ちで返事せぇ』

本当のことを言えば、俺も坊のことを好いとった。

けど、まだ、言うていいか分からんくて、視線を落としてしまう。

それを別の戸惑いだと勘違いしたのか、坊は俺を抱き込んできて。

『嫌ならえぇんや、そう言え。お前が女好きなんは知っとるし、俺んことお前がそんな風に想ってないのも承知の上や。せやから、無理なら無理でえぇ。別にお前んこと嫌いになったり、守らんくなったりせえへんから正直に答えてや』

別にそんなこと考えてなかったし、逆に突き放されたように思えて、俺は話すことに決めた。

『・・何が承知の上ですか。俺の気持ち全然わこうとりませんやん、坊は』

『・・・志摩?』

坊が抱き締めてた体を少し離し、俺の顔を覗き込んできた。

『俺の気持ち、勝手に作らんといてください。他の誰かならこんなこと言いません。けど、坊、あんさんには、そないなこと言うて欲しゅうないんですわ』

『志摩・・』

『・・俺かて、坊のこと、好いてます。坊が言うてる、その意味で。せやけど、同時に怖いんですわ。その関係になって、余計坊を困らせるやもせん。重荷になりとう・・グスッ、ないんや』

いつの間にか体が震え、泣いていた。それでも言葉を続けた。

好きな人と、結ばれたくて。

『坊は、それでも、俺んこと、想うて、くれはりますか?』

『・・当たり前や、アホ・・・好きやからな、廉造。ずっと放さへん、守うたるから、よう覚えとき』

久しぶりに発せられたその名前が自分のものだと思うと嬉しくて、いつもの仮面のような笑顔やない笑顔で、俺も好きな人の名前紡いだ。

『・・竜士さん、好き、ギュッてしてください。出来ればチューも』

『・・仕方ない奴やなぁ』

チュッ

唇に軽く触れるだけのキスをされ、更に抱き締められれば、もう俺は竜士さんのもんで、竜士さんは俺のもんなんやなぁと思わずにはいられなかった。

これからが楽しみで仕方なかったのだ、あの時は。



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