『道標』
□17
1ページ/1ページ
第17話
【入部テスト】
久遠「これより、入部テストを始める」
グラウンドに響く久遠監督の声。
放課後になり、サッカー部の入部テストをするため、監督の久遠と顧問の音無、雷門サッカー部、マネージャー、そして入部テストを受けるために松風たち一年が集まっていた。
久遠「松風天馬」
松風「はい!!!」
久遠「西園信助」
西園「はい!!!」
久遠「古手川咲夫」
古手川「はい!」
久遠「押井剛」
押井「はい!」
久遠「金成敦則」
金成「はい!」
テストを受ける一年全員の名前が呼ばれる。
久遠「君たちには実践形式でプレーしてもらい、それを元に『合格』『不合格』を決める」
「「「「はい!!」」」」
三国(予想はしていたが…たったこれだけか…)
やはり黒の騎士団との試合が影響しているようだ。今年は昨年と比べて人数がかなり少ない。三国は複雑そうに目を細める。
神童(誰が入ってこようと、なにも変わらない。何も…できないんだ)
神童は何やらピリピリした様子で目を瞑った。そう、何もできない…。どれだけサッカーが好きであろうと、不可能なものは不可能なんだ。
久遠「五人には、二年と三年を相手に攻めこんでもらう。方法は自由だ」
松風「頑張ってみんなで合格しよう!!」
西園「おー!」
神童「!!」
あんなことがあったのに、大変やる気のある松風たちに神童は驚いた素振りを見せる。が、他の三人を見て目付きを鋭くさせた。
古手川(今、サッカー部には部員が10人しかいない。落とされるはすがないぜ)
押井(ここで合格すれば、サッカー部の危機を救ったってことで先生たちの評価も上がる…)
──ピー!
悪巧みをしながら笑っている三人に気づいた神童だったが、ホイッスルが鳴りテストが開始される。
金成(落ちぶれた名門サッカー部でも、レギュラーはレギュラーだしな)
ドリブルをする金成は、攻めてきた倉間をかわして古手川にパス。だが、
古手川「うわっ…と。………どこ蹴ってやがる!!」
金成「お前のトラップがヘタなんだろ!!」
パスは走っていた古手川の少し前に通り、古手川は金成に。納得いかないまま再開した古手川はドリブルをしていき、押井にパス。
押井「あ……っ!てめえ強さ考えろ!」
古手川「ふん」
だかまた、今度はパスする強さがキツすぎてトラップ押井はトラップしそこねる。怒鳴る押井だが、古手川はどうでもよさそうにそっぽを向いた。
車田(こんなレベルか……)
霧野「……ハァ」
自分たちのことしか考えてない三人に、雷門イレブンは呆れ、そしてうんざりした。またこんなやつらか。どうせ、成績がよくなるからとサッカー部に来ただけだ。サッカーのことなんか、これっぽっちも好きではないんだろうな。
松風「大丈夫!これからこれから!」
神童「………」
気を取り直し、こぼれ球を拾った車田は西園に軽く転がして渡した。西園はそれを慌ててトラップしようとするが、失敗。
速水「あんな簡単なパスなのに…」
西園「あぁ……」
松風「信助、落ち着いていこう!!!」
神童(………何故だ。こいつを見ていると、自分でもわからない怒りが湧いてくる)
鬱陶しいのか、こいつの熱意が。
励ます松風に神童は苛立ちのこもった視線を送る。
松風「…いくぞぉー!!」
速水のパスを受け、松風は二・三年生に向かってドリブル。浜野が前に立ちふさがるが、松風は左右に揺さぶりをかけて突破した。
浜野「おっ、まぁまぁってとこかなぁ~」
少し嬉しそうに笑った浜野を抜かし、ドリブルを続けていた松風だが、不意に立ち止まった。
松風「神童先輩…!」
神童「合格するなんて…本気で言っているのか」
松風「はい!!俺、入りたいんです。雷門でサッカーしたいんです!」
松風のその言葉と真っ直ぐな瞳に、神童の我慢は限界まで達し、そして遂に爆発した。
神童「ここに『サッカー』は………ない!!!!」
険しかった神童の表情が更に歪み、彼は松風に向かって思い切り体をぶつけた。
松風は当然のごとく吹っ飛ばされ、ベンチでは松風を心配する声や神童のキツイ攻撃に不満を呟いた。
雷門イレブンは神童のらしくないプレーに驚きの表情。
霧野「何を熱くなってるんだ…?」
三国(神童……)
神童(ただ“好き”だというだけでは、今のサッカー界ではやっていけないんだ)
それは俺たちがよく理解していることだ。どれだけサッカーが好きであろうが、フィフスセクターがあるかぎり逆らえないし、楽しくサッカーをすることさえ出来ないのだから。
松風「…やっぱり、キャプテンはすごいですね!簡単に抜けそうにないやっ。でも、抜いて見せます!」
ゆっくり立ち上がり、ボールを取られたにも関わらず笑顔で、そしてワクワクした目で言った松風に神童は更に苛立つ。
神童「…っ出来るものならやってみろ!!」
松風「はい!!」
それからというものは、完全にキレてしまった神童が情けもかけずに全ての攻撃をカットし、一年生たちは全く歯が立たない状況が続いていた。
古手川「チッ…キャプテン本気じゃねぇかよ!」
押井「あいつが怒らせちまったから…!」
金成「やってられねぇぜ!」
そのせいでイラついてきた三人は、松風のせいだと睨んで悪態つき始める。やる気を削がれたらしく、三人はそれからボールに触れなかった。
──ヒュッ…
西園「あっ…!」
攻めこんでいた西園だが、神童にあっという間にカットされる。速すぎて見えなかったようだ。格の違いに、西園は諦めがちに転がってきたボールを眺めた。
西園「合格しようだなんて…無理だったのかな…」
松風「信助、まだ試合は終ってないぞ!」
西園「天馬…でも……」
松風「俺は諦めない!諦めなければ、なんとかなる!!」
転がっていたボールを拾い、再びドリブルで雷門イレブンに挑む。松風は今までの、そして今朝の練習を思いだし、一人・二人と抜いていく。
だが、やはり神童を抜くことは出来ない。
というよりかは、手加減がなく抜かせてはくれない。
松風「うわっ…!?……っまだまだ!」
西園「天馬…、」
「…なーにやってんのさ、拓人」
そんな入部テストの様子を土手で大人しく見ているのは真言。
間に合ってよかった。意味わからん起こし方をされたが、くるりん野郎のおかげで始まる前に見に来ることが出来た。
…おでこちょっとたんこぶできたけど。
「…苛立つ気持ちは痛いほどわかるけど、そんならしくない乱暴なプレーはあいつらと同じだよ」
そこの揉み上げくんみたいに。
ちらっと送った視線の先は、同じようにテストの様子を見ている剣城の姿が。彼の場合、見に来た理由は雷門の監視だろうが。
視線に気づいたのか、剣城は真言の方へ一瞬だけ目を動かせると、眉間に皺を寄せて、またグラウンドへと戻した。
おい、今の顔見逃さなかったぞ私は。
「…今の拓人にとって、天馬の存在は悪影響かもしれない。辛いし苦しいだろうね」
でもそれは、きっと今だけだよ。
がんばれ、拓人。
・
・
・
・
・
・
・
・
そして、空……辺りはオレンジ色に染まり、夕暮れの時間になった。
──ダダダッ…
松風と、松風の気持ちに動かされた西園は土でどろどろになり傷だらけになりながらも、諦めずに最後まで攻めていた。
松風「うおおお!!!!信助ぇー!」
西園「よし!!!……あっ!」
霧野をかわした松風のパスが今度こそ通ると思ったが、神童がテクニカルにカット。
神童(足掻いても、もがいても……本当のサッカーは遠くなるばかりだ…!!)
西園「いててっ…」
転けた西園に「まだまだ!!」と諦めていない瞳で松風が手を差し出す。その手に「うん!」と西園も同じ瞳をしながらで手をとった。
神童「……く…っ!!!」
それを見て、どんどんと怒りに染まっていく神童の表情。
神童「………っああああ!!」
天馬「わあっ!?」
走り向かって来た松風を、神童は渾身の力でボールをカット。もう蹴っ飛ばしたと言ってもいい威力に、松風は飛ばされて転げ回る。
振り向きもせず、神童は飛んでいったボールを取りに行くが………、
松風「諦める…もんかぁ!!!」
神童「!!」
力を振り絞って弾いたボールは、天高く上がる。それを神童が追うが後から飛んできた西園が彼の更に上を行き、ヘディングをしようとしたが。
神童の降り下ろしてきた足の方が速く、ボールは蹴り下ろされてしまう。
西園「った!!」
バランスを崩して背中から落ちた西園に見向きもせず、神童は冷たい表情で松風を睨み付ける。
神童「…どれほど頑張ろうと、手に入らないものがある」
それは、本当の意味での『勝利』。今のサッカーに…本気になる価値なんてないのに、こいつは…!!
神童「諦めなければ、願いが叶うとでも思っているのか!!!」
天馬「…はぁ、はぁ………はい!!」
神童「……ッお前はなにもわかっていない!!!」
声を荒げた神童は、今の全ての感情をぶつけるようにありったけの力で、松風に向かってボールを蹴った。
それは松風にへと向かい……、
松風「うわぁあ!!」
皆「「「「っ!!?」」」」
久遠「!!」
神童の暴力的な行動に、周りも、そして流石の久遠も驚きの反応。
直撃した松風は吹き飛ばされ地面に倒れるが、神童は無表情で見下ろす。
辛そうに荒く息をしながら松風はフラフラ立ち上がり、転がっているボールの上に足を置いた。
松風「ボール、とりましたよ………はぁ…はぁ、こんどこそ…抜いて、みせ………」
──ドサッ…
松風「天馬!!」
葵「天馬ぁ!!」
久遠「そこまで、試合終了!」
長かったテスト試合は、松風が倒れたと同時に終了された。
・