二粒の結晶。
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第3話
【幼馴染み】
「…う……ん…っ」
………あれ?私…今まで何して…つーか、ここどこ?
うっすら開けた目。開けたと言うことは、閉じていたと言うこと。ああ、成る程。私は寝てたのか…。
そして、開けた目の前にお墓があって…そこで思い出した。私は士郎に会う前に、父さん、母さんたちに会うため北ヶ峰を登ってきたんだと。
(そうだ、思い出してきた。私はここに着いたあと、父さんたちに向こうであったことを話してて…あったかい日差しを浴びてたら急に眠気が襲ってきて…)
寝たんだ──。
どーしても眠くなって…がんばって起きてみたんだが…無駄な努力はするもんじゃねーな、勉強になったよ。
全然覚醒しない頭に自分で呆れながら、ボーッとしていて暫く。あることに気づいた。
今私は座っている。だけどその座り方がおかしい。右に傾いて座ってるにも関わらず体が倒れてない。
ってーことは、私は何かに凭れてるってこと。それも多分人。
だが…知らない人のはずなのに、どういうわけか…
(ぜんっぜん怖くない…)
それどころか、なんか凄く安心できるってーか、暖かいってーか…なんというか、そんな感じ。
(誰だ…?)
体を預けたまま、少女は顔を上げてその人の顔を除き混む。と、同時に彼女は驚きに目を見開いた。
吹雪「おはよう、花香」
──…え。
「し、ろう…?」
吹雪「そうだよ。もしかして寝ぼけてる?」
驚いている彼女をよそに吹雪はクスリと笑う。
花香と呼ばれた女の子は少しの間ポカーンと間抜けな顔でいたあと、俯きプルプルと震え、そして──、
「しろーだあああああああ!!!」
吹雪「あいたっ」
勢いよく飛び付いた彼女は、支えきれなかった吹雪と一緒に倒れこむ。冷たい雪が二人を包み込むが、お構いなしに彼女は続ける。
「しろーだっ!しろーだっ!わーいしろーだあああっ!ひゃっほおおう!!」
吹雪「ふふっ…喜びすぎだよ、花香」
「だって2ヶ月ぶりだぞ!?私っ、ほんと嬉しい…っ」
大切な大切な私の幼馴染み。会えたことが嬉しくて嬉しくて…思わず士郎の胸に顔をうずくめる。あ、士郎の匂いだ…やっぱ安心するなぁ…。なんか変態みたいだけど。
吹雪「……僕もすっごく嬉しいよ」
優しく優しく、私の頭を撫でてくれる士郎の手が心地いい。
その心地よさに浸っていると、士郎が困ったような声で「そろそろいいかな?この体制キツくて…」と眉を下げた。
「あ……悪いっ」
謝りながら立ち上がり、「ほい」と手を差しのべる。
吹雪はお礼を言いながら、手を取った。
吹雪「それじゃあ…………白恋中に戻ろっか」
みんな待ってるだろうからと、微笑んだ士郎。
そうだ…みんなとも2ヶ月ぶりに会うんだよな…。どーしよ、ワクワクしてきた!
「あぁっ!早くみんなに会いたい!」
待ちきれない様子の彼女を吹雪は小さく笑うと、自然な動作で手を握った。
吹雪「はぐれないように、ね」
「…はぐれたりしないんだけどな」
そう言いながらも士郎の手は離さない。手を繋いだら、士郎が隣に居てるんだって安心できるから。
吹「行こっか」
「あぁ。……………あ、」
一つ踏み出した足を止め、彼女はお墓の方に振り向くと「また来るな」と伝え、そして再び歩き出した。
目指すは白恋中──。
(そう言えば士郎。なんで私がここに居るってわかったんだ?)(花香のことだろうから、先に父さんたちに会いにいってるだろうと思って)(それでいなかったら、士郎かなり無駄足だったけど)(いてるってわかってたから)(…もうー…士郎には敵わねーよ。流石)(そう?)(うん。………………(ジーッ)(…………なに?あんまり見られたら恥ずかしいんだけど…)(いや…士郎、背ぇ伸びた?)(あ、うん。伸びたよ、少しだけど)(やっぱり)(よくわかったね。あんまり変わってないのに)(しろーのことならなんでもわかるからなっ)(ふふっ、僕もだよ)(……そっかー。ははっ、なんか嬉しい)(…………それじゃあ花香、問題)(ん?)(僕は今何を考えているでしょう) (…え、…士郎……)(なに?)(何故怒ってらっしゃるので…あと、笑顔怖いっす…)(それを当てるのが花香への問題だよ)(…………わかりません)(もぉー……じゃあ大ヒント。花香さっき寝てたよね?)(あぁ…?)(僕との約束、覚えてる?)(約束…?………………あっ!)(思い出したようだね。言ってみて)(ゆ、雪山で寝ないこと…)(正解)(その……えっと…)(あれだけ言って約束までしたのに、“また”寝たよね?)(……;;;) (あんな所で寝たら、永遠に目が覚めなくなるかもしれないんだよ、わかってる?)(で、でも暖かかったから……)(今度約束破ったら、きつーいお仕置きするって………言ったよね?)ニコリ (お、お仕置き…)(そっ)(きつーい…)(うん)(…、)(…、)(…っごめんなさいいいいいい!!!)ダッ
(…ほんと、花香は弄りがいがあるな)
クスクスと笑いながら、吹雪は優しい瞳で走っていく花香の後ろ姿を見つめる。
───おかえり、大好きな花香。