二粒の結晶。
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第10話
【不思議な力】
ポジションに戻った私に士郎がふわりと笑いかけてきた。…ちっ、流石『雪原の皇子』だ…、笑顔が眩しいぜ…。
吹雪「暫く会わなかった間に、また上手くなったんじゃない?」
「まっ、武者修行も無駄じゃなかったってことだな」
吹雪「ふふっ、そうだね。
…ところで花香。さっき僕に対して物凄く失礼なこと考えてたでしょ」
「ふぇい!?そっ…そんなわけないよ何言ってんだ士郎は私のことがそんなに信用できねぇのかよ母さん悲しい!!!」
吹雪「考えてたんだ」
「………いやぁ…あの、」
吹雪「どうなの?」
……ヤバイ、非常にマズイ。目が笑ってない。何でわかるの士郎は。超能力とか持ってんじゃねぇの。士郎ならあり得るけど。いやいやそんなことより、この状況どうするべき。マジで誰か助『ピー!』
「しっ、試合再開したみたいだよ!今度はしろーの番だから私は手伝わないからな!」
吹雪「あっ、花香!」
試合再開を言い訳に、士郎から離れる。ナイスタイミングだよほんとに…助かった…。
ホッと胸を撫で下ろしてから、先制されたため更に機嫌が悪くなった染岡を見やる。ボールは彼が持っているようだ。
(…まぁたそんな顔しちゃってさ。女の子が怖がるってば)
勢いよく攻めこんで来る染岡に、再び紺子と烈斗が。だが染岡が怒鳴ってきたため、二人は先ほどのように震えて怖じけずいた。
(もうさっきのようには行かなせない)
すかさず花香が二人の後ろにつき、
「怯むな突っ込め!!私がついてる!!」
紺子「でも…っ!」
「お前たちなら出来る!私を信じろ!」
烈斗「花香…」
紺子「…うんっ!」
鬼道「!!」
恐怖していた二人の瞳に力が戻った…?これは…花香の力か…。
別にこれを見るのは初めてじゃない。あいつの一言が、その者の気を引き上げることは昔から多々あった。
帝国学園時代──…
鬼道「そこ!!動きが鈍くなっているぞ!! 」
佐久間「…なぁ鬼道。俺たちにこの特訓をこなせるのか。これで何回目だよ…」
額から汗を流し、心底疲れた表情で佐久間は俯く。いくら強豪の帝国学園だからと言っても、キツいフットワークに音を上げるときはあった。
鬼道「佐久間…」
佐久間「もう疲れた…」
辺見「あぁ…俺ももう…無理だ…」
佐久間、辺見に続き他のメンバーも目を伏せる。そのとき、
「諦めるのか」
佐久間「花香…」
「まだ、まだみんな全力を出してないじゃねぇか。なのに途中で諦めるのか!?」
辺見「さっきからずっとやっててこれだぞ!最後までやらなくてもわかる」
「わからない!!」
大きな声で断言した花香に、みんなは驚いて目を向ける。
「出来るか出来ないかなんて、最後までやってみなければわからない!
…そりゃ、何度やっても成功しなかったら苦しいかもしれねぇ。でもその分、成功したときの喜びは大きくなる!!」
佐久間「喜び…」
「そうだよ」と、花香は呟いた佐久間の胸に拳を当てる。
「お前らの“ここ”には、苦しみを乗り越えられる力がある。その力を使う前に諦めるなんて、勿体ないよ」
佐久間「苦しみを乗り越えられる…力…」
トンッと当てていた拳で次郎の胸を軽く叩き頷く。
「努力は必ず報われる。お前らの流した汗は、決して無駄にはならない」
一人で駄目でも、みんなとなら乗り越えられる。
だから、さ…
「みんな、諦めないでくれ…」
佐久間「…花香」
「「「………」」」
彼女の最後の言葉は命令などではない、願いだった。
みんなは胸に手を当て下を向いているため、表情が見えない。だが言葉が返ってこないため、自分の言ったことは仲間に届かなかったのだと花香は俯いた。
佐久間「…はははっ」
「へ?」
佐久間「あははははっ!」
「え、あのっ…じろー…?」
中々な辛さの沈黙でとても笑える状態ではなかったのに、いきなり笑いだした佐久間に花香は戸惑うしかなかった。
佐久間「あははっ…悪い悪い」
「笑いながら謝られてもだな…」
佐久間「いつも馬鹿やってるお前に説教されるなんてな」
「せ、説教とかそんなんじゃ…」
佐久間「いや、いいんだ」
笑いすぎたのか、目に涙を溜めながらどこか吹っ切れたように彼は微笑む。
不思議だな…。他のやつの言葉ならこんな有りがたい気持ちになんかならない。寧ろ不愉快になるだけだ。
でも…花香の言葉は何故か素直に聞くことが出来る。胸に染み込んでくるんだ。きっと…俺たちのことを心から思ってくれているのが、伝わってくるからなんだろうな。
佐久間「おかげで目が覚めた」
源田「…あぁ、俺もだ」
辺見「…ま、花香にしてはまともなこと言ったんじゃねぇの」
胴面「ちょっとくさかったけどな!」
「お前ら…じゃあ、わかってくれたのか…?」
佐久間「あぁ。俺はもう諦めない。最後までやり遂げてみせるさ」
うん、とみんなも頷く。自分の言ったことがみんなに伝わったんだと、花香は嬉しそうに笑って返事をした。
「あぁっ!!私も手伝うからさ!!」
辺見「お前の手助けなんか要らねぇよ」
「なっ!なんだとデコ!!」
辺見「デコ言うな!!」
「うるせぇお前なんかデコで十分だ!!」
辺見「…言ったなお前覚悟しろよ」
「その勝負受けて立つ!!
───って、うぎゃああああああ!!!首!絞まってる、んだけ、ど!!」
辺見「そのまま死ね!」
様子を見ていた鬼道は、笑い合うみんなを見てもう大丈夫だと思い、再開の合図をかけた。
鬼道「よし!始めるぞ!」
「「「はい!!」」」
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あの後見事にこなすことができたみんなに、花香が泣きながら肩を組んでいたんだったな…。勿論嬉し泣きの方でだ。
あいつには、その場の士気を高められる能力がある。不思議だが…その力に助けられてきたのも事実だ。
鬼道(変わらないんだな、お前は)
仲間のことにどこまでも真剣で、一緒に悩んで、泣いてまでやれるあいつの優しさに…俺は惚れたんだ。
鬼道は暖かい表情で花香を見つめた。
それに気づいていない花香は、見事染岡からボールを奪うことができた紺子・烈斗から、パスを貰っている所だった。
「よくやったぞ、二人とも!」
私の一言に嬉しそうに笑う二人に微笑んでから、珠香へと回す。けど、正直私と士郎以外はまだまだ実力はない。証拠に、パスを回した瞬間風丸が奪ってしまった。
ちっ…風丸のやつ…!珠香がかわいそうじゃんか!!風丸は可愛いから許すけどな!!
風丸「染岡!!!」
風丸からまたもや染岡へとボールが渡る。あーもう…後ろに戻るの面倒だ…、士郎後は頼むぜ!キラッ
ディフェンスに戻るのが億劫になった私は、サポートに回ることにして後は士郎に任せることにした。悪いとは思うさ!いやほんとだぜ!?けど…、
吹雪「そういう強引なプレー…嫌いじゃないよ」
ニッコリと、自分に近づいてくる染岡に笑いかける。
けど…士郎も楽しそうだからさ。横から手ぇ出すのは野暮ってやつだろ。
染岡がある程度近づいたところで、士郎はスケートをするように滑って飛ぶと、クルクルと回った。
吹雪「“アイスグランド”」
技名とともに、地面に着いた足の先から氷が飛び出す。その氷に触れた染岡が一瞬で凍りつき、士郎は空中で空に上がったボールを胸で受け止めた。
冷気が士郎を包み込み、太陽の光でキラキラと輝いて心底綺麗だと思った。何度も見てるけど、それでも見惚れてしまう。見習わなきゃな、と尊敬すると同時に少し妬けた。
鬼道(二人とも何てディフェンス能力だ…あれを破るのはかなり大変だぞ)
二人のディフェンスの凄さに思わず眉を潜める。どうするべきか、対策が見つからない。