二粒の結晶。
□11
1ページ/1ページ
第11話
【士郎とあいつ】
見事染岡からボールを奪った士郎はこっちを向いた。これはパスだな。でも何かめんどくさいし…、
吹雪「花香!!」
「ぱす!」
吹雪「いくよ!」
「は!?たからぱすだってば!!」
吹雪「パスしてるよ!」
「そっちのパスじゃなくてぱす!!」
吹雪「…意味わかんないんだけど!」
「だから…!!
──────あっ…」
吹雪「……花香!!!」
「しろーが悪いんだぞ!!私はぱすって言ったからな!」
吹雪「パスしたのに取らなかったのは花香でしょ!」
…今の状況を説明しよう。
染岡からボールを取った吹雪が、今のやり取りをしながら花香にパスを出したのだが、何故か彼女は受け取らなかったのだ。
それもそのはず。二人の会話は最初から噛み合っていなかったから。
吹雪はサッカー用語のパス…ボールを味方に渡す方の『パス』するという意味だったが、花香のパスは、ターン制のゲームなどで自発的に休む方の『パス』と言ったのだ。
つまり、面倒になった花香はボールを回してほしくなかったのだが、彼女の『パス』と吹雪の『パス』が同じに聞こえたため、吹雪はボールを渡してしまったのだった。
すれ違った会話をしていたため、ボールは見事にタッチラインを越えてしまった。これは雷門の好機である。
吹雪「…はぁ。
──花香、後で覚えておいてよ」
「え"っ!?いやっ…待て士郎!今のは私が悪かった!ごめん!謝る!土下座する!階段滑り落ちながら土下座する!!だから待ってお願「待たない」死亡フラグッッ!!!」
こっちを向きニッコリと笑いながら言ってのけたスノーデビル。あぁ…良い人生だった…さよならみんな…。花香はひきつった笑みを吹雪に返した。
余談だが、その後の花香はこの後のことを考え、吹雪に声をかけられるまで、試合そっちのけで頭を抱えていたらしい。それほどまでに吹雪が恐ろしかったのか、表情がお世辞でも良いと言えなった。
角馬『さぁーて!後半も残りわずかとなったぁ!このまま白恋の勝利となるのか!』
少し経って、全く参加せず念仏を唱えるようにブツブツと何か言っている花香に流石に限界だったのか吹雪が叫んだ。
「もう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だもう…(ブツブツ」
吹雪「花香!ボーッとしてないで切り替える!」
「そんなの──」
吹雪「無理とか言わないよね?」
「おふこーす!」
吹雪「なら集中して。サポートもしてほしいしね」
「へい…(泣」
一喝された花香は半泣きで試合に意識を変える。が、さっきの吹雪の言葉が引っ掛かった。
マジ士郎こえぇ最強。…って、ん?サポート…?
「……あぁー、なるほど。そういうことか」
吹雪の言葉の意味がわかったのか、彼女は納得したように笑う。かと思えば、ぶすっとしかめっ面になった。
・・・
(ひじょーーーに、めんどくさい。相変わらずなんだろうな、あいつ)
あいつのサポートとか気にくわないけど、士郎の頼みじゃ仕方ないか…。
・・・
あいつ、とは誰のことなのかはこの後すぐにわかる。それにしても花香はその『あいつ』のことが気に入らないらしい。嫌いというわけでもなさそうだが…。
(………あっ、やっべ試合!!)
気づいたときには時すでに遅し。ボールを持っている染岡は、ゴール前に立ち塞がった士郎に向けて必殺シュートを放っていた後だった。
自らに迫るボールと青い竜。士郎は臆したようすもなくそれを見つめ、カッと目を見開いた。
そしてクルリと回って、染岡の『ワイバーンクラッシュ』に右足を入れた。彼の蹴りの力に威力は相殺され、ボールは士郎の足元に収まった。
「「「「なっ!!?」」」」
何の必殺技も使わずに、染岡のシュートを止められ雷門は驚くしかなかった。
そんなみんなに、吹雪はニッコリと笑う。
円堂「そうか!!吹雪はフォワードじゃなくて、凄いディフェンダーなんだ!!」
そう考えれば、吹雪のこのディフェンス能力にも納得がいく。
(…とか思ってるんだろうなぁ)
半分アタリで半分ハズレかな。
ニヤリと笑みを溢した花香、と同時に染岡が吹雪へとスライディングをかけた。
士郎は私の方に目配せしてから、首に巻かれてるマフラーに手を当てて呟いた。
吹雪「出番だよ」
瞬間、士郎の背後から雪が吹雪き、あと足元のボールにわずかにまで迫っていた染岡を襲い吹き飛ばした。
(不服だけど、しろーの頼みだし…フォローは任せろよ)
・・・
ほら、あいつのお出ましだ。
吹雪「へっ…」
自身を覆っていた雪が晴れ、吹雪士郎の姿が現れる。が、その姿はさきほどまでとは違い、髪が逆立っており、目もつり上がり、好戦的に口端を上げる彼はあのフワフワとした皇子・吹雪と同一人物とは思えなかった。
吹雪「この程度かよ、あまっちょろい奴等だ」
おーおー、現れてその皮肉っぷり。何もかわってないな『あいつ』。
突然吹雪の口調・雰囲気が変わり困惑する雷門たちの中、花香は懐かしげに微笑んだ。