二粒の結晶。

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第13話
【好きも苦手も全部引っくるめた教師】







桐原「ぐーすかピーピー寝やがって…何だ?俺への嫌がらせか?俺の授業は聞いてられねぇってか?あ?」



「いや、そういうわけじゃ──」



桐原「寝るなら寝るで永遠の眠りについとけよ。そうすりゃ俺もスカッとすんじゃねぇか、頭使えよ頭をよぉ」



「それ桐っちしか得しねーじゃん。あと私生徒っすよ、わかってます?」



桐原「はぁ?何だてめぇその口の聞き方。反省してねぇってんなら、それなりのことはしてもらうぞ?」



「言い方やめろ」



このクッソ口が悪い男性は、名を桐原と言って私の担任だ。パッと見20前半といったところで、若い+世に言うイケメンだ。去年からの付き合いだが、この人の理不尽さには未だ慣れない。



桐原「大体てめえはなぁ、俺の担当教科だけ点悪いってどういうつもりだ?お?喧嘩売ってんだよな?」



「いたいっ、それはたまたま…いだっ…私の嫌いな教科に桐っちが当たっただけで…いてっ」



ゴスッゴスッと教科書の角で頭を殴ってくる桐っち。痛いんすけど。だが、おかげで完全に目が覚めた。



昨日の試合は見事白恋が勝ち(士郎が勝手に暴れたけど)、想像以上だった実力に瞳子は内心驚きつつ二人を勧誘。花香と吹雪はイナズマキャラバンに参加したのだ。



染岡は悔しそうに飛び出していったが、後を追いかけた円堂に何か言われたのか、しばらくしてから覚悟を決めた目で帰ってきた。



その後、今後のことを話し合っていたが音無が慌てた様子でパソコンを持って来たため皆でそれを覗くと、エイリア学園が他校の校舎を破壊している様子と、次のターゲットはここ『白恋』に決めたという何とも勝手な話をしているレーゼが映っていた。



本来なら、花香も今行われているエイリア戦のための特訓に加わらなければいけないのだが、彼女は『秀才』でもあり『馬鹿』でもある。



「ほんっっっと悪かったと思ってます」



桐原「寝言は寝ていえ」



「おやすみなさい」



桐原「舐めてんのか?」



「え、舐めていいんすか」



桐原「お前単位なしな」



「桐っち酷いッッ!!」



桐原「桐っち言うなっつってんだろ」



「んじゃ桐原」



桐原「ハッ倒すぞてめえ」



どんどん話の逸れた会話になってきているが、この光景は日常茶飯事らしく周りは気にも止めずに黙々と課題を進めていた。



「頼むよ桐っちぃー…特訓に行かせて」



桐原「駄目だ」



「なんでだよ!!」



桐原「お前が馬鹿なのが悪い、諦めろ」



「私の辞書に諦めるという単語はない!!」



かっこよく言い放ってさっさとずらかろうと立ち上がろうとしたが、それより早く桐っちが私の頭を押さえた。



そのほっせぇ体のどこから出てくるんだって力で押さえつけられ、私の立ち上がろうとするベクトルと桐っちの押さえつけるベクトルで変な力が加わり、首から嫌な音が鳴って激痛が走った。



「ぎゃあああああああ!!!首がッッ!!首がああああああああああああああ!!!!!」



桐原「バルス」



「おまっ!ふざけんなよ!!ゴキッつったぞ!?ゴキッて!!あとそれは目だろうが!!ふざけんなよ!!マジふざけんなよ!!ホントふざけ──」



桐原「あ"?」



「…ないでください」



もうヤダ…まいえんじぇう達の胸に帰りたい。他の先生ならこんな手こずらないのに…。流石、私の『好きも苦手も全部引っくるめた教師の順位No.2』なだけある。何だかんだで桐っちは好きだからな。え?No.1って?それは…、



新崎「桐原、そろそろ離してやれ」



「あっ、にぃーちゃん!」



新崎「おはよう、神崎。朝から元気だな」



優しい声で、暖かい、包み込んでくれるような笑顔で現れた男性。桐原と同じく若く、容姿も良い。呆れたように注意をされた桐原は、男性の名を呼んだ。



桐原「新崎…」



今の桐っちの気持ちを代弁すると、「タイミング悪りぃなこいつ」だ。



新崎「もう許してやったらどうだ、桐原。神崎も反省しているようだし、彼女には学校を守ってもらわないと」



桐原「駄目だ。甘やかすな新崎」



「にぃーちゃーん!桐原が苛めるぅー!」



桐原「桐原だぁ!?てめえ調子乗んなよクソガキ!」



まぁまぁと宥める新崎の後ろに隠れた花香は、顔を出すと手をプラプラさせて心底見下した眼差しを桐原に送った。



「かんざきぃ〜…てめえ後で覚えとけよ…」 「覚えとかねぇよ!」 「あ、おい!!」 「ありがとう、にぃーちゃん!」 「どういたしまして」



チャンスだと思い、得意のスピードで花香は教室を抜け出した。桐原は慌てて窓から顔を出したが、もうほとんど姿が見えなくなる所まで行ってしまっていた。



桐原「あ"ー……………………ったく、お前は神崎に甘ぇんだよ」



新崎「そうかな」



桐原「そうだ」



悪びれた様子もなく微笑んだ新崎に、桐原は溜め息をついた。



桐原「まぁ…、お前があいつに肩を入れたくなるのはわかるけどな」



新崎「それは桐原もだろ?」



ニコッと笑いかけてくる新崎に、桐原は居心地悪そうに顔を背ける。


桐原「“あいつら”の代わりに見守るしかできねぇんだよ……俺たちには」


新崎「あぁ……彼女には幸せになってもらいたいよ」


意味深な表情で、二人は花香の出ていったところを見つめた。











「ここまでくれば大丈夫か」



無事脱出に成功した私は一階の玄関にいた。



「いやぁ、にぃーちゃんには助けられたなぁ」



にぃーちゃんは私の『好きも苦手も全部引っくるめた教師の順位No.1』だからな。何かと手助けしてくれるし、お菓子くれたりするから大好きだ。全く、桐っちとは正反対だな。



…でも、たまに豹変するんだよ。なんか…あの有無を言わせない雰囲気。逆らったら死の世界が待ってるぞ…。



あ、にぃーちゃんって言ってるけどお兄ちゃんの方の『にぃーちゃん』ではなく、名字の『にいざき』を文字った『にぃーちゃん』だ。



「にぃーちゃんのお陰で抜け出せたし、特訓行くかっ!」




どんな特訓してるのかなぁ〜っ!
ワクワクしながら、私は玄関から飛び出した。






 

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