二粒の結晶。

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第16話
【二人の闇】






円堂「すっげぇー!校舎の裏はゲレンデなのかぁ!!」



吹雪に連れて来られたのは、校舎の裏にあるゲレンデ。



サッカーと関係がほとんどない場所でいったい何をするのか。



みんなが疑問を抱き始めたその時、雷門の後ろからスノーボードに乗った吹雪と…



「ふうぅおおおお!!!スノボー久しぶりだやっべぇぇえ!!!!」



同じくスノーボードに乗った、やたらテンションの高い花香がやって来た。



円堂「スノーボードかぁ!!」



風丸「それでどうやって風に…?」



吹雪「まぁ見ててよ!
──雪が僕たちを風にしてくれるんだ」



風丸だけじゃなく、みんな怪訝な表情をしているが口で説明するより見せたほうが早い。「いくよ、花香」と吹雪はゲレンデに飛び降りた。



「おう!!」



とても元気な返事をして同じく飛び降りた。
二人は横に並んでどんどん加速する。花香に関しては気持ちが高ぶり、滑り降りるだけじゃ物足りないらしく蛇足に動き回っていた。



円堂「速い!」



染岡「ただのスノボーじゃねぇか」



鼻で笑う染岡と感心する雷門イレブンに、何故か一人だけいる紺子が説明をする。
吹雪と花香が、走るより雪を滑る方が風を感じるから好きだ。と言っていたことを。



吹雪「みんなぁー!よろしくー!」



白恋「「「「はーい!!」」」」



ある程度スピードが出てきたとき、吹雪の合図により待機していた白恋が持っていた雪玉を二人めがけて転がした。



円堂「危ない!!」



自分に向かって転がってくるたくさんの大きな雪玉。二人は顔を見合わせて笑うと、吹雪は左に。花香は右に飛び上がって避けた。
一回転して着地すると、挟むように左右から転がってきた雪玉をスピードを上げて避け、二人はクロスの形にすれ違う。



土門「すげぇなぁ…雪玉の滅茶苦茶な動きを完璧に見切ってるぜ…」



鬼道「互いの動きもな」



紺子「花香ちゃんたちが言うには、速くなればなるほど感覚が研ぎ澄まされて自分の周りのことがハッキリとわかるんだって!」



一ノ瀬「確かに速いよ!」



財前「この特訓面白そー!!」



円堂「あぁ!俺もやりてぇ!!」



円堂はキラキラとした瞳で花香たちを見つめる。この特訓がしたくて仕方ないようだ。


目金「おぉー……」


自分の前を滑っていく吹雪を目で追い、速いなと呟いた目金。と、隣の栗松に向かって一つの雪玉が転がっていく。


栗目「「ああああああああああ!!!!」」



予想通り、その雪玉にぶつかり二人はそのまま絶叫しながらゲレンデを転がり落ちた。雪の壁に衝突しなんとか止まったが、その衝撃で木の上に溜まっていた大量の雪が落ちる。


──ドドドドド…



吹雪「ッ!!?」



円堂「吹雪!?」



まるで雪崩が来たような音が鳴り響いたと同時に、吹雪はスノーボードを減速させて頭を抱え座り込んだ。その様子は何かに怯えているようである。
何かあったのかと、円堂たちが慌てて近寄り尋ねたが彼は…、



吹雪「………あ、ごめんごめん。ちょっと失敗っ」


と微笑するのだった。
その笑い方はどこか無理をしているようだが、円堂は気づいていないようで「そうか!」と返事をした。



吹雪「………!!花香!花香はどこ!?」



円堂「神崎?あいつならそこに……………あれ?」



ゲレンデの上を指差すがそこには誰もいない。変だなぁ…確かに居た筈なのに…。
何処かにいるだろ!とあまり気にしていない円堂だが、吹雪は血相を変えて花香を探す。その慌てっぷりに円堂は首を傾げる。


紺子「吹雪くん!!」


そこに走ってきた紺子が「花香ちゃんはこっちだよ!」と吹雪を引っ張った。彼女も何か慌てているように見える。



吹雪「花香!!」



場所はそんなに離れてなく、そこには小動物に囲まれて座り込み微動だに動かない花香がいた。その目は焦点が合っていないで、何処か遠い所を見ているようだ。



吹雪が名を呼びながら近寄るが彼女は無反応。その反応に、吹雪は血の気が引いていく。



このままじゃマズい……ッ!



吹雪「花香!!僕だ!士郎だよ!」



「………」



吹雪「しっかりして!!花香!!」



肩を揺らして呼びかける。”さっき“の時はたまたま階段から落ちて雪山に埋もれて…とハプニングが続いたからこの『症状』は出なかったけど、今は違う。ダイレクトに音を聞いてしまった…。



円堂「どうかしたのかぁー?」



吹雪「あ、……いや…っ!」



中々帰ってこない吹雪たちに、円堂が遠くから問う。



円堂「さっきの特訓やって、みんなでサッカーやろうぜ!!あっちで待ってるから早く来いよー!」



「……ッ」ピクッ



───サッ…カー…、



吹雪「!!…そうだよ、花香の好きなサッカーを守るんでしょ?!」



円堂の言葉に反応した花香は小さな声でそう呟く。今だ、と吹雪はさっきよりも力強く呼びかけた。



「…好、き…………ま、もる…………………………サッカー」



真っ暗で、何も映していなかった花香の瞳に色が戻っていく。



「───……士郎」



吹雪「!!!」



弱々しいが、それでもしっかりとした声で名を呼ぶ。
虚ろだった目はちゃんと吹雪を捉えていて、表情もいつもの彼女に戻っていた。



吹雪「花香…僕がわかるんだね?」



「うん……士郎」



吹雪「……っよかった」



本当によかった…ッ。
強ばっていた体から力が抜ける。心底安心 して優しく花香を抱きしめた。




……士郎…凄くあたたかい…落ち着く…。
花香は吹雪の胸に顔をうずくめる。




吹雪「あのまま“戻ってこなかったら”どうしようかって……」



「……ごめん、士郎」



吹雪「……………いいんだ、もう」



──戻ってきてくれただけで。
そう言って微笑む。「ありがとう」と花香も微笑み返した。



吹雪「………戻ろっか?みんな待ってるよ」



「……あぁ」



先に立って差し伸べてくれた手を取る。
情けねぇな…辛いのは士郎だって同じ、いや。それ以上な筈なのに…。



本当にありがとう、士郎。



感謝の気持ちを込めて、ギュッと手を握った。





(みんなぁー!待たせてごめーん!)(待ちくたびれたぞ)(ははっ、悪かったって風丸)(吹雪と何処かへ行っていたみたいだが…、何かしていたのか?)(……いんや?別に何もしてねぇよ)(……ほう)(え、何、怒ってんの有人)(……………そんなことはない)(その妙な間やめてくんね?)



(花香…君が“あの過去”に縛られない日は来るのかな…)




──それは“僕”も同じ、か…、







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