二粒の結晶。
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第22話
【視線の先は】
角馬『さぁ、両チーム共気合は充分!天は我らに味方するのか、それとも見放すのか!運命の一戦、まもなくスタートです!!』
でっけぇ声だな…確か実況の角馬だっけ。寒そうだな…。
「…私たちのこの一戦に、白恋や人類の命運がかかってるのか」
角馬を一瞥してから、さっきみんなの手に重ねて気合いを入れた自分の手を見、ギュッと握り締める。こんなに緊張する試合はいつぶりだろう。
吹雪「怖いの?花香」
「まさか。士郎やみんながいてるんだ、負けるわけないさ」
吹雪「ふふっ、その自信はどこから出てくるのかな」
「へへっ…、当てにしてんぜ相棒」
返事の代わりに士郎は優しく微笑む。その笑顔に、強ばっていた体から力が抜ける。
(…さんきゅ、士郎)
うっし……準備はできたぞ宇宙人。あとは…、
吹雪「さぁ、」
「風になろう」
「舞い踊ろう」
円堂「おう!
…みんな、ファイトだ!!!」
──ピーー!
グラウンドにホイッスルが鳴り響き、試合開始。
染岡のキックオフから上がっていくみんなを、ディフェンスから見守る。
レーゼ「さて、少しは楽しませてくれるのかな」
染岡「見せてやるぜ、パワーアップした俺達を!!」
自分の前に立つレーゼを染岡はドリブルでかわす。動かなかったようにも見えたレーゼだが、気にせず染岡は上がる。
染岡「どうだ!」
レーゼ「…その程度か」
嘲笑するレーゼ。そんな顔でも可愛いと思うよ私は、うん。
角馬『おっとお!ディアムが加速したァ!!』
物凄い速さでこっちに走ってくるディアムと呼ばれた宇宙人。確かに速い、だけど士郎のそれにはとても及ばないな。円堂たちだって…、
円堂「速い………けど、見える!!」
土門「こっちだ!」
染岡から奪ったボールをレーゼがディアムにパスするが、反応した土門によってカット。うっしゃ、ナイス土門。
レーゼ「ほう…少しは出来るようになったようだな」
面白い、とでも言うように笑みを浮かべるレーゼ。かなり上から目線な話し方にそんなにこのチームは舐められていたのかと眉を寄せる。前の試合知らねぇからなんとも言えねぇけどな。
風丸「っよし!!」
宇宙人の出したバックパスを風丸が見事にインターセプト。風丸のやつ……、
「士郎…、」
吹雪「あぁ…風になれたね」
風丸のしてきた努力が無駄じゃなかったのだと思うと嬉しくて、思わず声を上げる。
「風丸ー!やったなぁー!!」
風丸「…あぁ!!」
土門「花香!俺の時はねぇのかよ!?」
「あ、わり。忘れてた」
土門「お前な…!」
みんな特訓の成果が出ているようで積極的に攻めてるし、返事を返してくる余裕もあるみたいで宇宙人と互角に戦っている。有人も中々にノリノリだ。
(おーおー、みんな頑張りますなぁ)
おかげさまでディフェンスとしての仕事がない。が、未だに点は取れていない。さっき染岡がシュートしたけど決まらなかった。
(…あれじゃ無理だ、速さが足んねぇ)
吹雪「もっと…スピードがなきゃ駄目だ」
「…あれっ、私口に出してた?」
吹雪「え?」
「いや、同じようなこと考えてたから」
やっぱ、私たち共鳴してんだよ。 ふふっ、だといいね。 だといいじゃなくて、してんだ! わかったよ、わかったから。
余りにも暇なため、 隣のポジションにいる士郎と駄べっているとレーゼが勢いよくこっちに突っ込んできた。
「おっ、来た来た!」
円堂「右だ!」
吹雪「うん!」
「え、オイしろ…」
吹雪「アイスグランド」
飛び出した士郎にレーゼは一瞬にして氷に閉じ込められ、持ち上がったボールを士郎が胸で受け止める。相も変わらず速いそれに口を出すこともできなかった。
「くそ…私の出番…でもナイス士郎…」
今のエイリアの攻撃は、吹雪のスピードがあってこそ防げた。先ほどの瞳子の指示の意図はこれにあったのだと、みんなは気づき出す。
口数が少なく説明不足なところはあるが、瞳子はデタラメな指示を出しているのではないのだ。
円堂「今度は左だ!」
吹雪「あぁ!」
「ちょっと待てええええ!!!私に行かせろおおおお!!」
叫んだ花香は、言うが早いか攻めた来たエイリアに勢い良く突っ込んでいく。余程参加したかったのだろう、顔が怖い。
「アイシクルランス!!」
エイリアは現れた氷柱に吹き飛ばされ、攻撃は花香によって塞がれた。彼女も吹雪に劣らないスピードの持ち主。だから吹雪と共にディフェンスに下げられたのだ。
円堂「いいぞ!花香!吹雪!」
風丸「流石の速さだな」
染岡「チ…ッ」
角馬『凄いぞぉ!吹雪と神崎のハイスピードディフェンス!ジェミニストームにシュートを打たせないぃ!!』
確かに二人のディフェンスで敵の攻撃は全て防いでいる、が。
(こっちが点を取れなければ、私たちがいくら守ったって意味がねぇ…)
それに早く点を取らないと、このディフェンスもいつまで持つか。敵さんだって馬鹿じゃねぇはずだ、何かしてくるに決まっている。
次の瞬間、見事その予感は的中した。
レーゼ「我々のスピードに慣れきた、か。最低限の学習能力は持っていたようだな。
──だがここまでだ」
怪しく口角を上げて、バックパス。
受け取ったエイリアに鬼道と一之瀬がマークするが、左右にいるうちの左にパスを出した。
鬼道「何だこのパターンは?!」
レーゼ「“アストロブレイク”!」
今までの内で見たことのないフォーメーションに、奴らの攻撃を許してしまう。
塔子と壁山がディフェンス技でカバーするが、それも意味なく突破される。
吹雪「花香!」
「わかってる!」
士郎は無理だが、私のディフェンス技はシュートブロックにも使える。
フォローに向かおうとしたその時、背後からまるで矢で射抜かれたような鋭い視線を感じた。
「ッ!?」
あまりにも強いそれに、勢いよく振り返る。
(何だ今のは…)
辺りを見回すが真っ白な雪原と林があるだけで、特に人影も見当たらない。
(気のせい…なのか?)
だが私の心臓は今の出来事を証明するようにドクドクと早く鼓動していた。
吹雪「花香!前!!」
「!?、しまっ…!!」
完全に気移りしていた私は、士郎の声で我に返ったが反応できずシュートは円堂の元へ。
円堂「入れさせるか!“爆裂パンチ”!!」
気の溜まった拳でパンチの連打。止めようとする円堂の意志とは反対にシュートは突き進み、円堂を巻き込んでゴールへ突き刺さった。
角馬『ゴォオオル!!あーっと先制点はジェミニストームだあぁ!』
そしてここで虚しくも前半終了のホイッスルが鳴った。
レーゼ「わかっただろう?人間が我々に勝てるはずかないのだ」
円堂(確かに強い。…………だけど!!)
蔑み、嗤うレーゼに円堂は諦めていない強い瞳で見上げた。