二粒の結晶。

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第24話
【初得点の協力者は】




「何だったんだ、さっきのは…、」


後半開始の準備のため、ピッチに上がってポジションに付く。
本来のポジションであるミッドフィルダーに、シュートの解禁。テンションは上がっているのだけど、さっきの視線のことが気になる。


確認のため、再度先程視線を送られたと思われる場所を見てみるがやはりそこには雪に覆われた林しかない。


(おかしいなぁ…)


確かに視線は感じた筈なのに。


それも暗く、重い。あれが憎悪というやつのだろうか。あんなに激しい負の感情をぶつけられた事はない。


だから余計に気になった。それが誰なのか。どうして、そんな感情を抱かれていたのかが。


「…なぁ、」


──君は一体誰なんだ…、


鬼道「花香!!」


「ふぁいっ!?!?」


大きな声に驚いて顔を向ける。


鬼道「……何度呼ばせる気だ、お前は」


声の主は有人。相当呼ばれていたようで眉間に皺を寄せて深い溜め息をつかれた。


「あ…悪い、ボーっとしてた…」


物思いにふけっていると周りが見えなくなるのは私の悪い癖だ。


有人はもう一度溜め息をつくと、


鬼道「…何かあったら俺に言え。


──……お前は馬鹿みたいに騒いでいるのが丁度いいんだ」


「へ…?」


そう言って前を向いた。え、今のって…。
不意を突かれて間抜けな顔で有人を見る。


「……うん、そうするよ」


それが彼の不器用なりの心配だと気づいた時には、だらしなく頬が緩んでしまっていた。


「…ニヤニヤするな気持ち悪い」 「いやぁー、素直じゃない有人が可愛くってねぇ」


元気出たよ。さんきゅ、有人。


(今は目の前のことに集中だ)


絶対に勝たなければいけない試合なんだ。
…君のことはまた今度考えさせてよ。


気持ちを切り替えて私も前を向いた。同時に後半開始のホイッスルが鳴り響いた。


「おぉ、始めっからかっ飛ばしてくるなぁ」


攻め込んでくるエイリア。名誉挽回のため、ボールを奪いに走る。


「“アイシクルランス”」


氷柱で吹き飛ばし、ボールを手中に。敵陣に切り込んでいくが、あいつが私の隣に並んできた。


吹雪「俺に寄越せ!」


「はぁ?誰がお前の言うことなんか聞くかよ!」


吹雪「な、おい!?」


今回は自分で決めなきゃ気が収まらない。スピードを上げてあいつを抜かす。後ろから罵声が聞こえるがそんなものは無視だ。


「おぉぉりゃあっ!!」


ゴールの右端を狙って力の限り蹴る。上手いことコントロールが効き、端スレスレで入るかと思ったがキーパーの必殺技によって止められた。


「チッ…」


吹雪「だから俺に寄越せって言ったんだよノロマ」


「渡しても同じ結果だったし私はお前より速いから」


吹雪「はぁ?いつお前が俺に勝ったって言うんだ」


「私もお前も速いんだよ!」


吹雪「褒めるのか馬鹿にするのかどっちかにしろよ!」


((((なんだこのコント…))))


言い争う二人にどう対処していいのか悩む雷門イレブンだった。
この二人こっちが攻撃(フォワード)になったら喧嘩し出すんだよな…、普段はあんなに仲がいいのに。


一之瀬「花香!」


再び雷門の攻撃。パスを貰った花香に吹雪がまた並んだ。


吹雪「おい」


「しつこいなぁ…嫌だって言っ───」


吹雪「寄越せ、花香」


「!!」


静かな声色に顔を見やると、いつもの人を馬鹿にするような表情とはまるで違った真剣な眼差しをしていた。


吹雪「俺が行く」


「……わーったよ」


ほらよ、とパスを出す。受け取るとあいつはニッと笑って足を速めた。
…ったく、付き合わされる私の身にもなれってんだ。


シュートを打つ所まではいけたものの、私と同じく止められてしまった。やっぱりあいつでも必殺シュートじゃなきゃ無理か…。


中盤を抜いてもう一度攻め入るあいつだが、


エイリア「“グラビテイション”」


吹雪「なんだと…っ!?」


エイリアの出したゾーンに入った途端重力が襲い掛かり、膝を付いた。その隙を逃さずカットされる。


吹雪「やるなぁ…こっちも燃えてきたぜ!」


円堂「凄い技だ……やっぱり手強いぞ!」


いくらエイリアのスピードを攻略したからと言って、点が入るわけじゃない。
ここからどうしていくかが問題なんだ。


角馬『さぁ今度はジェミニストームのチャンスだぁ!!』


上がっていくエイリア。その前に塔子が立ち塞がり、繰り出した必殺技でボールを奪う。


染岡「こっちだ!」


塔子「あいよ!」


塔子から染岡へのセンタリング。だがそれを受け取ったのは染岡ではなく吹雪。


横取りをされた染岡は吹雪に怒鳴りかける。


染岡「吹雪!!」


吹雪「ゴールを奪うんだろ?俺に任せとけばいいんだよ!!」


挑発的に笑ってあいつは上がっていくが、エイリアのディフェンス技によって食い止められる。


横取りをしたにも関わらずあっさり奪われた吹雪に染岡が声を荒らげる。


染岡「決められなかったじゃねぇか!何考えてんだよ!」


吹雪「いいから見てろ。本番はこれからだ」


「……、」


染岡の言ってることに気に求めず、余裕な様子で吹雪は走り戻っていく。これで全く決まらなかったら負けるというのに。そんな焦りが染岡の中にあった。


鬼道(どうやって連携している…)


先ほどの変わったパターンのパスを出したエイリアとの対峙。鬼道は頭を回すが次にどこへパスを出すのかがわからない。


もう一度点を許してしまうのかと思った時、


「やつをよく見ろ!!」


花香が一之瀬と鬼道に叫んだ。それがどういう事かはわからないが、二人はとにかく相手への意識を集中した。


エイリアはペロッと唇を舐めると左へとパス。


一之瀬「そうか!」


連携の仕方がわかったのか、すかさず一之瀬は必殺技を発動。


一之瀬「“フレイムダンス”!」


新必殺技のようで、一之瀬の周りを踊るようにクルクルと回る炎がエイリアを襲い、転がったボールはタッチラインを超えた。


レーゼ「馬鹿な…っ」


ゆっくりと、ゆっくりと。だが着実に追い詰めてきている雷門にレーゼは顔を歪ませる。このままではマズイ、と。


風丸「やったな一之瀬!凄い必殺技じゃないか」


鬼道「どうしてわかったんだ?」


一之瀬「癖があるんだよ。タイミングと方向ががわかるんだ」


風丸「癖が?」


塔子「宇宙人にも癖があるんだ…」


どこかズレた所を見ている塔子に苦笑いしてから、花香に目を移した。


一之瀬「彼女のおかげだよ」


塔子「そう言えば、さっき何か叫んでたな」


一之瀬「あぁ。あの一言のおかげで気づけたんだ、助かったよ」


鬼道(……まさかあいつは、最初に見た1回だけで見抜いたというのか)


流石の鬼道も、鋭い花香の洞察力には素直に感心した。


その本人は鬼道たちの視線に気づくと、ニッと歯を見せて笑いかけたのだった。







またもや先ほどのエイリアと対立。一之瀬は相手の癖を確認すると、今度は防ぐのではなくカットした。


彼も中々の飲み込みだ。


吹雪「さぁ!俺にシュートを撃たせろ!!」


先を走り、パスをせがむ吹雪にセンタリング。


レーゼ「やつを止めろ!!」


吹雪のキック力を見ていたレーゼが止めるように指示。彼のパワーならゴールを割られるかもしれない。そう判断したための命令だったのだが、それが間違いであった。


吹雪「来たな」


ニヤリと怪しく笑うと、吹雪はパスを出した。それだけでも奇跡だというのに相手は…、













吹雪「染岡ぁあ!」


染岡だった。


驚いた染岡だったが、フッと笑うとボールを蹴りあげた。


染岡「いけぇええええ!!!」


蹴ったそれは今はまでの“ドラゴンクラッシュ”とは違った、さらに強力なもの。
蒼いドラゴンと共にそれはゴールネットを揺らした。


「「「「!!!」」」」


染岡「っよっしゃあああああああ!!!!」


喜びを抑えきれず、咆哮した染岡は大きくガッツポーズ。みんなも声をあげながら彼の周りに集まった。


ワイワイと騒ぐ雷門をジェミニストームは驚きを隠せずただただ唖然に見つめる。


円堂「よぉおし!やったな、染岡!!」


染岡「どうだ、決めてやったぜ!!」


目金「あの技は“ドラゴンクラッシュ”の進化版、“ワイバーンクラッシュ”と呼ぶべきでしょう」


キラリと眼鏡を光らせて命名したとき、吹雪と花香が染岡に声をかけた。


吹雪「まだ勝ったわけじゃねぇだろ。決勝点は俺が決めてやる」


「おめでと、染岡!」


屈託の無い二人の笑顔に、染岡は顔を逸らすと覚悟の決めた目で地面を見つめた。







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