『道標』

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第1話
【出会いは突然に】










「うっわ……でけぇ…」



桜が散る道を通り、訪れたのは雷門中学校。



流石名門校と言うべきか、校内も校舎も何もかも綺麗である。



しかし人が多いな…。今日は入学式と始業式だったはずだから仕方ないけど。



すれ違うやつらはみんな私の方を見てからコソコソ話し出すし…何なんだよ。そんなに私が珍しいのか。帰国子女ってバレてんのかな。



あ、私服だからとか?制服間に合わなかったんだよなあ…。



正確には、校門に立って校舎を眺めてる彼女に目を奪われているだけなのだが。



(さて……私も今日からここの生徒になるわけだが…)



何処にいけばいいのかね。



ここから見てもとにかく広いこの校内の何処に行けばいいのか…うんうんと唸っているとドンッと背中から強い衝撃が。



「うわっ!?」



前によろけながらも後ろに振り返る。(なんだ…?)



?「……おい、」



「ん?」



?「ボーッと突っ立ってんじゃねーよ邪魔くせぇ」



「……は」



振り返った先にいた改造制服を着た男の子は独特の切れ目で私を睨みながらそう言い放ち、ついでに舌打ちをして中へ入っていった。



あまりの唐突な暴言に呆然。



「……………な、んだあのガキ!?」



邪魔くせぇだぁ!?ぶつかってきたのはそっちだぞ?!なのに何だあの口の聞き方、舐めてんだろ。 舐めてるよな?殺るぞ?マジ殺るぞ?



ちょこーーーーっとムカついた私は、反撃するべくさっきのもみ上げつり目改造制服野郎を追いかける。



走る、走る私。



「オイおま、」



?「あの、すみません!」



呼び止めようとした時だった。



突然背後から声をかけられ思わず振り返る。声の主は私よりほんの少し小さい、ピカピカの制服を着ている男の子だった。



新入生かな。なんて考えていたら、



「……あ、」



さっきのクソガキを思い出し、慌てて探すが人混みにまぎれて何処かへ行ってしまっていた。



クッソ見失った…今度見つけたら私が直々に教育してやるよ、覚えとけ改造制服野郎。



?「あ、あの…」



「…あぁ、ごめん。何か用?」



鬼の形相の真言に男の子は話しかけたことを酷く後悔したが、優しく微笑しながら返答が来てホッと息をはいた。



?「あ、あの…あなたは雷門の関係者さんですか?俺、サッカー部の居場所が知りたいんです!」



「サッカー部の…?」



?「はい!俺、サッカー部に入りたくて、見学しようと思って!」



「それで朝っぱらから学校に?」



確か新入生はまだ来る時間じゃなかったはずだ。



?「はい、少しでも早く入部したいと思って」



「………あれ、でも入部届けを出せるのは早くても放課後からだったはずだー…ぞ?」



?「…えっ!?そうなんですか!?」



そうだと言うと、彼は「うわぁー…」としゃがみこみ心底落ち込んだ。
その様子を見て真言はフッと笑う。



「君はサッカーが好きなんだなっ!」



嬉しそうにしながら、真言は男の子の頭をくしゃくしゃと撫でた。驚きつつも、彼は笑って答える。



?「大好きです!サッカーは俺の友達ですから!」



「!!」



──サッカーは友達。



(そんなことを言うやつがまだ居たんだな…今のサッカー界に)



──私と同じだ。



「っはは、」



?「??あの…」



「あははははっ!!!」



?「!?」



一瞬優しい表情になったかと思うと、真言は唐突に笑いだした。



訳が分らない男の子は戸惑うばかり。



「ははっ、ご、ごめんな、いきなり…っ」



暫くして、目に溜まった涙を指で拭いながら何とか笑いは収まった。



「いやぁー…君面白いねぇ。よく言われるだろ?」



?「えぇ!?今の何が面白かったんですか?!と、特に言われたことはないですけど…」



「そーかそーか。君みたいな人材は大切に育てていかないとなぁ」



一人頷きながら感動した眼差しを向けられ、男の子はどうしたらいいのかと、それだけだ。



「ポジションとかはあるのかい?」



?「あまり決めてないですけど、ドリブルは出来るほうだと思います!」



「お、自信ありげだなぁ」



?「周りにサッカーする友達が居なくて…それで一人でもできるドリブルの練習してたら上達してきちゃって」



「人一倍練習したってことだな」



?「いえ、俺なんてまだまだなんです!小さい頃なんて──」



キラキラとした目で楽しそうに語る男の子を、微笑ましそうに話を聞く。



暫くサッカーの話で盛り上がっていたが、



「…あ、と。色々話逸れたな」



?「…あ!ホントだ」



「えっとー残念だけど、私はここの関係者じゃないんだ。だからサッカー部の居場所も知らない」



どちらかと言うと生徒の方だ、しかも今日から。私服だから教師と間違えたんだろうけど。



?「そう…なんですか」



「あぁ。悪いね、役に立てなくて」



?「いやいや気にしないでください!楽しかったです!」



「そう言ってもらえると嬉しいなぁ」



微笑む彼女だったが、何を思ったのかふと真剣な表情になる。男の子は不思議そうに顔を覗く。



?「??あの…?」



「サッカー部…今年から入るんだよな?」



?「あ、はい。そのつもりです、けど…」



「そっか…。




──まだ何も知らないんだな…可哀想に」



影の入った暗い瞳でポツリと呟く。彼には聞こえない、小さな声だった。



「…な、」



?「はい?」



「もしこれから何があっても、自分の……君のサッカーだけは信じていてほしい」



?「俺のサッカー…?」



「そう。君のサッカー」



約束。と目を細めながら小指を出す。男の子は少し考えるとニカッと笑って指を絡めた。



?「よくはわからないけど、約束します!」



「ん、ありがとな!」



ゆーびきーりげーんまーん♪
二人で歌って、無事指切りを終えた真言は満足気に礼を言った。



「よし…じゃ、私はそろそろ行くよ」



?「……あ、あの!」



「ん?」



?「また…会えますか?」



不安げに尋ねる男の子にキョトンとすると、真言は少々荒っぽく再び彼の頭を撫でた。



?「わっ?!」



「またすぐに会えるよ」



ニッと歯を見せて笑う。



根拠がないのに妙に自信のあるその言い方に、彼は安心して頷いた。



「じゃあな」



──サッカー馬鹿くん。



片手を上げて挨拶をすると、真言は校舎の中へと姿を消した。











side男の子




?「良い人だったな…」



彼女の入っていった所を見つめる。



サッカーの事にも詳しかったし、もしかしたら経験があるのかもしれない。



?「今度会った時に聞いてみよう!」



あの人とだったらとても楽しいサッカーになると思うんだ。



?(それに…)



凄く綺麗な人だったし…///
真言の笑顔を思い出し、ほんのりと頬を染める。



?「……………俺のサッカー、か」



自分のサッカーをするのって、大切なことだよな…。



?「……頑張るぞ!!」



自分の頬を叩いて気合を入れると、彼は何処へ向かうのか元気に駆け出した。



あの人の言ってる意味はわからなかったけど、何だか励まされた気がしたんだ。









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