『道標』

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第4話
【すぐに会える】 side松風







?「サッカーなんてくだらないもん、必要ねぇ!」


ガシャン、と。


そう叫んだ改造制服の男の子の足元にあったサッカーボールは、彼によって遠くにあるゴミ箱に荒々しく入った。


あの女の人と別れた俺は、サッカー部の顧問の音無先生に出会い、グラウンドへと案内されていた。そこで目にしたのは、目の前にいる改造制服をきた男の子が、雷門イレブンと思わしきサッカー部の人たちを、傷つけ倒している光景だった。


仲介に入ったが、気に入らなかったのか男の子が怒ってしまい、冒頭へ戻る。


音無「…きみ!!サッカーを侮辱する気!?」


無機質なその音が頭の中に響きわたると同時に、


?「侮辱?熱くなるなよ、センセ」


俺の中の“何か”がキレる音がした。


「…待てよ」


サッカーは……サッカーは…!


「サッカーはくだらなくなんかない!サッカーはくだらなくなんかないし、必要だ!」


サッカーを、『友達』を貶されたのが悔しくて、拳を握り締める。
サッカーがいたから、今の俺があるんだ。なのにコイツは…!


?「はぁ?」


「……あ、いやっ、その…」


やってしまった。


我に返った時にはもう遅く、改造制服を着た男の子は俺を鋭く睨んでくる。怒りを含んだその目に、完全に目をつけられたことがわかった。


「…お、俺は松風天馬!今日からサッカー部に入るんだ」


こうなったらもう…どうにでもなれ!


「はっ、残念だったな。サッカー部はたった今なくなった。他の部にでも入るんだな」


──サッカー部が“なくなった”…?


「そんな…ッ!俺、サッカー部に入るためにここに来たんだ!サッカー部がなくなるなんて困るよ!」


雷門でサッカーをするのが憧れで……雷門のサッカー部じゃなきゃ意味が無いんだ!
『あの人』がいたのはきっとここ、雷門サッカー部なんだ!なのに廃部なんて…!


?「困る?」


必死に止めようとするけど、それがかえって彼を怒らせたようだ。鋭かった目付きがさらに深くなり、俺を射抜く。


「そうか、相当サッカーに自信があるみたいだな。なら見せてみろよ、お前のサッカーを!」


「え?―――――うわっ!?」


聞き返す間もなく突然何かが俺の腹に当たった。それが何かと理解する前に、俺はフワリと重力がなくなったような感覚になると、すぐさま背中に強い衝撃が来た。そして目に映る景色が空に。


「???」


一体何が。


自分の身に起こったのとがわからずにいると、お腹に激痛が走った。


「い…っ…!?!」


ここでようやく、俺はあの男の子が蹴ったサッカーボールによって吹き飛ばされたことを理解した。


「ムカつくんだよなぁ。お前みたいに、サッカーをろくに知りもしないやつが語るのがよぉ」


「…知ってるさ。俺だってサッカーを知ってる!」


痛むお腹を抑えながら立ち上がり、彼に歩み寄る。


ボールを蹴り合えば相手の気持ちが伝わってくる。沢山の人と繋がれる。サッカーを渡って、絆が生まれる。


サッカーは素晴らしいものなんだ。


?「ほぉ…?」


ギラリと光る彼の目。何だか嫌な予感しかしない。


?「だったら見せてみろよ。お前の実力」


「え?」


?「ひとまず俺と勝負するってのはどうだ?」


「しょ、勝負?」


何だかマズイ展開になっている気がするんだけど…、


突然の提案に戸惑っていると、彼は挑発的な笑みを浮かべ、


?「どうした、さっきの発言は撤回するか?」


「し、しない!やってやる!」


音無「ちょ、天馬くん!?」


正直心臓バクバクだけど、サッカーを馬鹿にされて黙ってられないよ!
それに、俺だってサッカーを知ってるってことを証明できるいいチャンスだ。


?「来な。相手になってやる」


くくっ、とニヒルに笑うアイツ。獲物を狙うような目付きに、やっぱり止めておけばよかったと頭の片隅で後悔する。


(き、気迫に負けちゃダメだ…!)


頑張るぞ!!


あの女の人と別れた後、サッカー部の見学に来ただけだったのにどうしてこんな事になっちゃったんだろう…。




















「はぁ…はぁ…っ」


?「どうした、もう終わりか?」


「はぁ……っくそぉ!」


あれからどれだけ経っただろう。


すっかり肩で息をしまっている俺は、全く息を乱していない彼の足元を必死に狙っていた。


男1「あーあ…こりゃもう駄目だな」


男2「遊ばれてる…」


サッカー部の人からそんな声が聞こえる中、男の子からサッカーボールをぶつけられるも何度も何度もボールを奪おうとするけど、軽々とかわされる。


あーもう!何で取れないんだ!


悔しい反面、絶対に取ってやるという燃える気持ちもあった。


(くっそおー!)


俺が彼からボールを取れなければ、雷門サッカー部は廃部にする。


いつしかその条件を忘れ、俺はただひたすらにボールを追いかけていた。
こんな状態でも彼とのサッカーが楽しいと感じながら。


だけど、それもいつまでも続かなかった。


?「そろそろ飽きてきた。終わりにするぜ」


怪しく笑うとボールの後ろに足を置いた。シュートを打ってくるのかと思ったけど、彼は器用に足にボールを乗せた。


何だか今まで以上の雰囲気に身の危険を感じ、思わず身構える。


彼はそのまま勢いよく足を引きボールを落とすと、それを蹴った。するとボールを中心に藍色のオーラが集まり始める。


?「“デスソード”」


手を振りかざし、暗黒の気を纏ったそれを俺めがけて放った。


ざわめく周りの人達。


ドンドン迫ってくる必殺シュート。
俺は決して目を背けずに力強くそれを見る。


──俺は…!


(俺は、サッカーをするためにここに来たんだ!そう決めたんだ!)


──『あの日』からずっと…!!


脳裏に"あの日"の出来事が蘇る。
俺の人生を変えてくれたあの―――…


(サッカーやるんだ!)


──“あの人”のように…!!


「やると決めたら絶対やるんだああああああああ!!!」


熱くなった体。何だかわからない力が溢れてきて、無我夢中にヘディングをした。


「だぁぁあああ!!!」


──負けるもんか!!


力一杯押し返す。暫く競った後、弾かれたもののシュートは何とか足元に収まった。


「……………取った!?」


?(なんだと…!?)


俺の足元でコロコロ転がるサッカーボール。


やった…俺…取ったんだ!!!


「これでサッカーができる…!!」


もうサッカー部は無くならないんだ!憧れの雷門でサッカーが出来るんだ!!


収まらない喜びに拳を握り締め両手でガッツポーズ。それが感に触ったのか男の子は歯を噛み締める。


?「ッサッカーサッカー言うんじゃねえ!ウゼェんだよおぉ!!」


激しい剣幕で彼は俺に向かって強力なシュートを放った。


「!?!?」


突然の事に反応が出来ず、今までの比じゃないそれは猛スピードで俺の目の前にまで迫った。


(当たる…っ!)


覚悟を決め固く目を瞑り、来るであろう衝撃に構える。


もうダメだと思った時、ふと前方に何か気配を感じるものが現れた。


「……っ…?」


何だろう…?


衝撃も来ないし、気配の正体が気になってそっと目を開けてみる。


「あ、あなたは…!」


──そこにはあの女の人がいた。


その人はこっちを見て柔らかく目を細める。競り合っていたシュートは弾かれ、真上へと飛んだ。



──す、ごい…。


一瞬の出来事に付いていけずにいると、男の子に何かを言ってから女の人はこっちに振り返り、歯を見せて笑った。


真言「よっ」


軽いノリで手を挙げられる。今の状況には不釣り合いな態度にどう対応すればいいのかわからない。


「えっと…こんにちは…?」


こ、これでいいのかな…?


そう思いつつ取り敢えず返事をすると「言ったろ、すぐに会えるって」彼女は俺の頭に手を置いて、わしゃわしゃっと撫でた。


「わっ!?」


真言「どうしてこんな事になったのかはわからないけど、よく頑張ったな」


その人の優しい表情と声に、胸がじんわりと暖かくなる。


なんでだろ、この人の笑顔を見ると安心してしまう。


(不思議な人だな…)


そんなことを考えながらボーッと彼女を眺めていると、パッと頭から手が離された。


真言「後は私の個人的なあれだから、ちょっと任せてくれるかい?」


そう言うと、返事を待たずに女の人は改造制服の男の子の方を向いた。


?「…何者だ、お前」


真言「君に答える義理はないなぁ」


俺の前に立って彼と会話をする女の人の後ろ姿からは、何かどす黒いオーラが見えて…、


真言「ていうかその反応。もしかして覚えてないとか言わないよな?私のこと」


?「はぁ?」


何言ってるんだコイツ。


という目つきの彼に、女の人からほとばしるオーラが更に重くなった。ような気がした。


真言「人にぶつかって暴言吐いときながら覚えてないと?」


? 「…………あぁ、あの時の女か」


心当たりがあったのか、男の子は面倒くさそうに舌打ちをした。


?「過ぎたことをいつまでもグチグチとしつけぇな」


真言「カッチーン」


(自分で効果音言った…)


その人は黙り込んで俯いた。怒りからかプルプルと震えているような、気がする。


真言「…君が私を覚えているか否かはこの際どうでもいいよ。ただ、」


──このままじゃ私の気が収まんないんだよねぇ。


頭に手を当てて深い深い溜め息をついてそう言うと、女の人は受け止めていたボールを足元へぽとんと落とした。


何をするんだろう?


俺と男の子は彼女の行動の意図が読めず、ただただ様子を伺う。


真言「だから、」


ボールの上に足をダンッと強く置くと、彼女は男の子の方へ向いた。


本日2度目の嫌な予感…。


ポーンっと持ち上がるサッカーボール。彼女は口角を吊り上がらせると、落ちてきたそれをあろう事か男の子に向かって蹴り飛ばした。


真言「仕返しだクソガキィィイ!!」


「な、何やってるんですかぁあ!!」


突然の行動につい声が。


一体何をされたのだと問いたくなる程の形相の彼女。そのまま俺に親指を立てた。それもドヤ顔で。いや、すみません何がgoodなんですか。


真っ直ぐ突き進むそれは、さっきの男の子が放ったシュートにも負けていない威力で彼の足に衝突した。


?「…っ」


一瞬歪んだ彼の表情。


男の子の足で受け止めたシュートはすぐに止められず、少ししてからボールは右に受け流され、そのまま飛んでいき壁へぶち当たった。


真言「…止められた」


心底残念そうにしながら舌打ち。とんでもない事をしたという自覚がないみたいだ、この人は…。


?「…もう一度聞く。お前何者だ」


真言「だーかーらー。君に答える義理はないって」


驚いた目で飛んでいったサッカーボールを見つめてから、彼はギロリと女の人を睨む。それに億した様子もなく答えると、彼女はニッコリと笑った。


?「…ふざけるのもいい加減に、」


彼が詰め寄ってきたその時だった。


?「お前たち!サッカー部の神聖なグラウンドでなにを騒いでいる!」


「??あの人は…?」


新たに増えた声。
みんなが聞こえた方に目を移す。
そこには、黄色のユニフォームを着た茶髪の男の人が堂々とした立ち方で俺たちを見下げていた。


?「やっと来たか」


とてもいいとは言えない笑い方で彼は見上げる。


神童「俺は雷門サッカー部キャプテン、神童拓人!そしてここにいるのが―――」


神童と言った人の背後から、同じユニフォームを着た人達が集まり出す。



神童「雷門イレブンだ!」


初めて見た雷門イレブンに、胸が躍る。
凛とした姿の神童さんに自分でも目が輝いているのがわかった。


そんな俺の横にいる女の人は、


「…げ、やばい」


と、焦りを含めた声色で呟いた。






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