『道標』
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第5話
【苛立ちの原因】 剣城side
(何だったんだアイツは…)
収まらない苛立ちを吐き出すように舌打ちをする。
だからといって何の変化もないが、そうでもしないとやっていられなかった。
「へぇ。流石名門校だな」
神童「無駄口はいい」
それでも顔には出さず、案内されただだっ広いサッカー棟内部を見て皮肉ると、放っておけばいいものを律儀に返答してきた神童拓人。
嘲笑ってから試合を始めるために向き合って並ぶ。
その際に脳裏をかすめたのは、俺を胸くそ悪い気分にさせた原因である“あの女”。
“松風天馬”と名乗った素人も腹が立ったが、それを容易に超えたのがアイツ。
あの後…雷門イレブンが現れた後、あの女は最初の俺への険悪な表情・態度が一変して、
──「いやぁー、いきなりボール蹴ってごめんな?怪我は?足折れてない?」
そう言って歯を見せて無邪気に笑ってきたんだ。
「…は?」
真言「違うんだ、待って、聞いてくれるかクルリン改造制服くん。私ってば短気だから直ぐ手を出してしまうんだ。あ、あの場合は足を出してしまった訳だけども。…よいしょ、」
態度の豹変ぶりに驚いている隙に、近づいてきていた女はしゃがみこむと何の断りもなく足を触った。
勿論俺の足を、だ。
「…ッオイ!触んじゃ、」
真言「んー…怪我とかはしてないみたいだな、よかった。怒らないでくれよ?」
安堵の表情でホッと息を吐いてから立ち上がると、この女はあろう事か俺の頭をくしゃっと撫でた。
「ッ、!?…お前、っ!」
真言「ありゃ、ワンコロくんは喜んでくれたんだけどなー」
何だ…、何なんだよコイツは…っ!
態度の変わりようについていけず、柄にもなく戸惑う。とりあえず距離がちけぇんだよ!
俺なんかにお構いなくコイツは「反応が初だなぁ。あ、照れ屋?」陽気に笑う。
「まぁ、クルリン君にシュート打ったのは今朝の仕返しってところ。これでハーフアンドハーフって事で勘弁してくれないかな」
あ、私は口じゃなくて足を出してしまったから……4:6くらいかな?
一歩下がって1人話を進めていく女。
つまりコイツが言いたいのはだ、俺が女に暴言を吐き。そのお返しがさっきのシュート。『これでおあいこ水に流そう』そういう事らしい。
俺がそれに言い返すとするならば、
「ふざけ──」
真言「よし、これで私たちは友達だ」
遮られて握手。そして笑顔。また触れられた。
やられ放題な俺はそろそろ思考が追いつかない。
「お、前!!本当になんなんだよ!!!」
せめてもの抵抗に手を振り払って問いかける。
女は「私?」と首を傾げると、またあの笑顔を見せ、
真言「私は──」
神童「そこのお前!!」
真言「......げ、」
土手の上から降ってきた声にまた遮られる。
同時に女はビクリと肩を動かした。その顔色はとてもいいものではない。
今風に言うと『ヤバイ』だ。
神童「その服装...雷門中学校の生徒ではないみたいだな。何者だ!」
真言「わ、私はぁー......、」
女は引きつった笑みで神童の方へ体を向ける。何を迷っているのか、暫くの沈黙。
それに耐えきれなくなったのか、神童がもう一度問う。
神童「何者だと聞いて.....っ!!」
そこまで言って、何を思ったのか神童はまじまじと女を見つめた。
みるみると困惑の表情になっていった奴は、恐る恐る口を開いた。
神童「お前...もしかして...、」
真言「あああーーッ!!!私そろそろ行かないとおーー!!」
白々し過ぎるほどの言い方で女は声を上げると「どうもお騒がせいたしましたぁー!」と周りにいるやつらに頭を下げた。
真言「君も、いきなりごめんな」
最後に女は俺にそう言うと申し訳なさそうに眉を下げた。
...そう思うなら、最初からあんなことすんじゃねぇよ。
「...お前、結局何なんだよ」
真言「...これから君にとって邪魔な存在になることは確かだな」
「邪魔な存在だと...?」
真言「あぁ」
どういう事だ、と聞く前に女は俺からゆっくり距離を取ると屈託の無い笑顔を浮かべ、
真言「そんじゃ、またな。
────剣城京介くん」
「…っ!?お前!!」
神童「おい!待て!」
引き止めようとした俺と神童に動じずに、女はひらひらと陽気に手を振って走り去っていった。
あの女...今確かに俺の名前を...。
(サッカーセンスも高いようだった...あれはシードの力と匹敵するものだぞ...)
───何者なんだ...アイツは。
いくら考えても答えが出るわけもなく。
取りあえずわかっていることは、嵐のように現れ嵐のように去ったアイツに状況を無茶苦茶にされたということくらいだ。
...俺のペースもな。
(...っくそ)
謎だけを残していった女に、俺はただ無性に腹が立った。
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(アイツ...)
思い出したくもなかったが、さっきの出来事が蘇り胸の中にモヤモヤとした感情が渦巻いた。
(あー...くそっ、ムカつく)
再び舌打ち。
アイツのことが気になって...そんな自分にも腹が立ち、ただただ行き場のない苛立ち。
───ピー!
そんな俺を引き戻すかのように鳴ったホイッスル。
試合が始まった今、雷門イレブンを潰すという使命を果たすべく俺は目の前の神童たちに意識を戻した。