『道標』
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第6話
【厄日だ…】
「いやぁー...危なかったな...」
走っていた彼女は、足を止めて周りを確認してから溜め息をつきながらしゃがみこんだ。
「......心臓止まるかと思った」
“あいつら”が雷門にいることは知っていたけど、こんなにも早く出会ってしまうなんて...。
「.........ぜっったいバレたな、あれ」
次にあったら確実に捕らえられる、そして身ぐるみ剥がされる勢いで問い詰められる、確実に。
(あいつ怒ったらめんどくさいからなぁ...)
訳は泣きながら怒るから。ああなってしまったら暫く泣き止まない。
何か思い出したのか、真言は「懐かしいなぁ」と小さく笑う。
「それにしても疲れたな...」
朝っぱらから突き飛ばされるわ暴言吐かれるわ変わった人には捕まるわ何か揉め事に巻き込まれるわで...、勘弁してほしいね全く。
乾いた笑みを浮かべるが...、最後のは少し訂正させてもらうと彼女自らが揉め事に突っ込んでいったのだが...。
自覚していない真言は、もう一度深い溜め息をついた。
「さて、と…これからどうするかなー…」
実は予定が狂いすぎていて対処に困ってるなう。
「これバレたらマズイやつですよねぇー…」
当初の計画から脱線しすぎてしまってどう手をつければいいのか…、
「これから動きずらいんじゃねーの私…」
取り敢えずこのことを"あの人"に報告するかだよなぁ……、どっちにしろ悪魔の微笑みを見ることは間違いない。
「……泣きたい」
男「おい聞いたか!?」
「…ん?」
頭に両手を当ててしゃがみ込んでいた真言の近くで、男子高校生が興奮した様子で声を上げた。
何事かとそちらに目を向けて会話を聞き取ってみる。
男1「サッカー部が何かたいへんなことになってるらしいぞ?!」
男2「あぁ、試合だってよ!」
男3「サッカー棟に行ってみよーぜ!」
「…………あ、」
ああああああああ!!!!やっちゃったあああああああ!!!!
両手に頭を抑えたまま、今度は立ちたがって身悶えする。声には出さなかったものの、動作はまさにその気持ちを表した動きになった。
「そーだよ、雷門サッカー部が現れたんだぞ……そりゃそうなるよな!!なんで気づかなかったのかな私!!!馬鹿なのかな私!!!」
いやでもあの時は"あいつら"が来てパニクったっつーか……!あー……くっそー!!
女1「何この人ひとりで……変」
女2「しっ!関わっちゃダメだよ!行こ!」
周りの生徒からの痛い人を見る目もお構い無しに真言は自分の世界を広げに広げる。
ブツブツ独り言を呟きながら立ったり座ったり動き回っている彼女は、傍から見たらただの変人だ。
「……過ぎたことは仕方ない、今からでも行くべきか」
今更行ったとしてももう人は集まってるだろう、こちらとしてもこれ以上目立つと(もう手遅れだけど)分が悪くなる。どうするべきか。
「…………っだあー!!うだうだめんどくせぇ!!」
とにかく試合の内容や結果だけでも知っておくべきだ。
──よし、
やっと選択した私は、サッカー棟に向かって踵を返した。
が、
?「ちょっと君、いいかな」
「……?」
走り出そうとした時、右腕をガシッと掴まれて急停止。その反動で後ろに倒れそうになったところを何とか踏ん張って声のかけられた方を確認。
?「………」
「…あの、なにか?」
何も言わずに、まじまじとこっちを見てくる男性。上から下まで感じた視線にちょっとだけ背筋が…、
「……あの、用がないなら失礼し「君、部外者だよね?どうやって入り込んだのかな」
……えっ、
遮られ、尋ねられた内容は想定していたものと違ったものだった。
「いや、あの、私今日から生……」
男性「さっき生徒からも報告があったんだ、『制服を着ていない変な人がいる』とね」
「変な人だぁ!?」
確かに私服で制服は着てないけど……変な人ってなんだ、失礼なやつだなそいつ、なぐっぞ。
『変な人』というのはきっと身悶えしていた彼女を指しているとみて間違いはなさそうだったが、真言自身は、あの時の行動を自覚していなさそうだった。
(彼女にとっては)身に覚えのない内容に少し眉間にしわを寄せる。
男性「……とにかく、」
だが、男性は特に気にした様子も見せずに真言の腕を引いて歩き出した。
「えっ、ちょっと!?」
男性「私はこの雷門中学校の教師だからね、生徒達の声を無視するわけにはいかないんだ。とりあえず指導室に一緒に来てもらうよ」
「……えええええ!!?いや、あの!私今から行くところが……!!!」
男性「口答えせずにさっさと歩く!」
抵抗してみるが、大の男に敵うはずもなくズルズルと引っ張られる。いやいやいやいや!!
「私今日からここの生徒だって!!せ、い、と!!」
男性「後で聞くから!ほら、自分で歩きなさい!」
「ほんとだって!!信じてよおおお」
あぁ……今日はなんでこんなことばっかり……、
悲痛の叫びも聞き入れられず、真言はそのまま連行されるのだった。