『道標』
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第10話
【変わらない君】
「お、ここか」
サッカー棟をでた私は、拓人の様子を見るために入学式をさぼり、保健室までやってきていた。場所がわからなかったから中々に迷っちゃったけどな。
中に誰もいないことを願いながら、音がならないようにそっと扉を開ける。
保健室内は先生を含め誰もいなかった、きっと入学式に参加しているのだろう、これはラッキーだ。
ベッドのカーテンを静かに開けると、痛々しい姿をした彼が寝ていた。
「拓人…」
頬には泣いたあとが残っている。感情が高ぶると泣いちゃうところ、相変わらずなんだな。変わっていない彼になんだか安心した。
「…ごめんな、何もしてあげられなくて」
助けてあげたかった、苦しそうな君を何も出来ずに見てるだけだったあの時間、本当に辛かった。
でも今はダメなんだ。
「…悪い夢でも見てるのかな」
ふと、拓人は少し辛そうに眉を潜めていた。ついさっきにあんなことがあったんだもんな、当たり前だ。
彼の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
壊れ物を触るかのような力加減で。
「…ダメだよ拓人、君は泣き虫なんだから」
1人でなんとかしようとして全部抱え込む。周りを頼らない。そういうところも昔と変わんないなんて。
真言は、ふっと小さく笑う。優しい彼女の手つきが伝わったのか、神童は穏やかな表情になった。
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「っあー!心臓張り裂けるかと思った」
保健室をあとにした私は、あの人に朝から起きた出来事を全て報告していた。
電話越しにでもわかった、すっごく悪い笑顔してた、あれ。もう心臓ばっくばくだよ。
「お仕置きで追加トレーニングかな…」
引きつった表情の真言。
でも計画通りに事が進まなかったのは私のせいではない、あのもみ上げくんのせいだ。
「あいつがぶつかってきて私に喧嘩売らなかったら、あんな公の場に私が出ていくことなんかなかったんだからな、うんうん」
あとはまあ、あの男の子が危なかったから助けただけだし、別にやりかえせるし丁度いいと思ってたわけじゃないから、うん。
ま、もう仲直りして友達になったわけだし、あのことはもう言わないさ。ここからうまく関わらないように避けとけばいいだけの話。
友達になったのは、一方的にそう思ってるだけということを真言はまだ知らない…。
「とりあえず今からどうすっかなあ…。入学式はサボったし、教室今から行くのも目立つしな…」
んー、仕方ないから校内でも探索するか!
体育館裏に座り込んでいた私は、張り切って立ち上がり足を進めた。が、
「あ、れ…」
真言は突然減速。そしてなんだかふらふらしている。
「あー…やっちゃったなこれ」
辛そうに息をしている真言。
だめだ、動悸がする。焦点が合わない。
その呼吸はどんどんと荒くなっていく。
そういえば思い返せば朝から走りっぱなし。元々体が強くないからツケが回ってきたんだ。
(保健室に…っ)
壁に手を付き、ずるずると歩く。だが角を曲がろうとした時に限界が来た。
がくんと折れ曲がる足。目の前に迫る地面。
あー、こりゃ目が覚めたらたんこぶできてんな。
意識が遠ざかっていく中、そんな呑気なことを考えた。
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