『道標』
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第12話
【崩壊】
部員A「フィフスセクターに目をつけられて、サッカーなんかやってられねぇよ!」
時は少し進み。
サッカー棟の部室に召集がかかったため、部員たち全員が集まっていた。
雷門サッカー部に入部しようと楽しみにしながらやってきた松風と西園は、その怒鳴り声と部員たちの雰囲気にたじろんでいた。
だが相当切羽つまってるらしく、みんな自分たちに気づかずに話は進む。
部員A「剣城とか言う一年もおっかねぇし……今まで色々我慢してきたけど、もう限界なんだ!!」
西園「なんか、雰囲気最悪だね…」
松風に小さく耳打ちした西園はとても不安そうだ。
松風「きっと、原因は今朝のことだ…」
いきなり現れた黒の騎士団だなんて名乗る組織に、名門の雷門中のイレブンがコテンパンに打ちのめされ、その上見逃されたのだ。
少なからず、名門高のサッカー部員として自信を持っていた彼らにとっては、十分すぎるほどの精神的にも肉体的にもダメージをくらったし、意気消沈した。
そしてシードが干渉してきた今、これからどうなるのかわからない。
部員A「いこうぜ」
その言葉を合図にするように、部員Aを中心に1人また1人と席を立ち始めた。
浜野「ちゅーかちょっとちょっと、みんなマジ?」
天城「おめーら!」
部員A「……本気ですよ、先輩」
車田「いいのかよ、神童!!」
あまりにも辞める部員の数が多く、少し焦りが見える車田に神童は座りながら「仕方ありません…」と俯いた。
車田「仕方ないってなんだよ!」
青山「……セカンドチームは終わったな」
一乃「……っ」
後ろの席で青山が一乃に呟く。同時にセカンドチームの部員たちが退部すると一乃に伝えたため、彼は更に苦しそうな表情になる。
水森「俺たちもだ」
手を挙げたのは、ファーストチームの水森と小坂だ。
天城が「せっかくファーストチームに上がったのに」と説得をするが、二人は「サッカー部は内申がよくなるから入ってただけで、サッカー自体にこだわってない」と言ってのけた。
車田「てめぇらあ!!」
殴りかかる勢いで机に乗った車田に二人は少なからず恐怖し、顔を青くさせる。
だが、振り上げられられた拳は三国の言葉によって止められ、怒りを抑えて拳を引っ込めた車田は机の上に座り込み叫んだ。
車田「でもよぉ三国!我慢してるのはみんな同じじゃねーか!」
「我慢」
たった二文字の言葉だが、車田たちはその二文字では表せないほどの苦痛を受けていた。
思いっきりサッカーがしたいのに、できないという苦しみに。
そして我慢しているのは車田だけじゃなく、サッカー部みんなだということ。
神童「水森、小坂…今までありがとうな」
本人たちがそう言っているのだ。だいたい、黒の騎士団との戦いを承諾したのは自分。だが結果、惨敗してしまったのだ。自分がどうこう言う筋合いはない。
口にこそ出さなかったが、そう言った神童の手は小刻みに震えていた。
不満そうな天城だが一番辛いのはキャプテンの神童だとわかっているから、何も言い返さなかった。
次々に部員たちは立ち上がり、部屋の外へと歩きだす。だが、部員たちは外にでることはなかった。
何故なら、
松風「待って…待ってください!」
松風が手を広げて制止をかけたからだ。
松風「お願いします!やめないでください!」
手を広げたまま松風は頼み込む。だが、水森たちは興味なさげに
水森「わりーな、もう決めたんだよ」
松風「で、でも…俺、先輩たちとサッカーするの凄く楽しみにしてきたんです!それに、雷門サッカー部は俺の憧れなんです!」
水森「ガキだな、お前」
松風「えっ……?」
まさかそんな言葉が返ってくると思わなかった松風は、驚いて気の抜けた声を出した。
水森「今日の見てわかっただろ?雷門サッカー部はこの程度の実力なんだよ」
小坂「俺たちはな、怖くなったんだサッカーが」
松風「怖い…?サッカーの何が怖いんですか?サッカーって楽しいものだと思うんです。
──俺たちが楽しいって思わなきゃ、サッカーがかわいそうですよ!」
不思議そうに、しかし真剣な眼差しで言った松風だったが次の瞬間返ってきたのは笑いだった。
でもそれは、漫才を見て面白おかしく笑うのとは違う、相手を馬鹿にする貶すような笑い方だ。
倉間「おい一年、サッカーがかわいそうだぁ?サッカーは人間じゃねーよ」
松風「で、でも俺、本当にそう思ってます!楽しいって思えば、きっとサッカーは嬉しいはずです!」
きっと神童キャプテンだってわかってくれる…!
そう神童を見る松風だったが、彼は返事をせず再び俯き、
神童「…行かせてやれ」
松風「キャプテン…!!」
水森「ありがとよ神童、そろそろこいつの言うことにキレそうだった所だ」
ドンッと松風を押し飛ばす。よろけた松風を気にも止めず、水森や小坂たちは今度こそ部屋から出ようと出口に向かう。
扉の前に立ち、自動ドアが開く。
水野「あ?なんだお前、何か用かよ」
だかその扉の前には人が立っていた。また立ち塞がれた水野は、機嫌悪そうに声をかける。
「ここに用はなかったんだけどなあ。まあ通りすがりのモブキャラだと思ってよ」
俯いていたその人物は、そう言うとぱっと顔を上げた。それはとてもとてもいい笑顔で。
「ちょっとお話しようか、負け犬くん」