『道標』

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第13話
【我慢できない】





(あーーー、やっちゃった)


絶賛後悔してるなう。


目の前に立ってる変な頭の男の子含め、部室内にいるサッカー部員たちの視線を針のように感じながら、そんなことを考える。


こんな予定じゃなかったんだけどなあ…ほんっと私ってやつは我慢できなさすぎ。


まずなぜ私がこんなところにいるかだけど、それは雷門の監督に話をするため探しにきていたからだ。


そしてたまたま通りかかったこの部室。中から話し声が聞こえてきたから、ちょっと聞き耳を立ててたら、これがまた腹立つことばっかり言ってやがるんだ。


でもこれ以上干渉するのはさすがにまずいから、スルーしようとしたんだけどね。あの男の子の声が聞こえて咄嗟に足を止めちゃったんだ。


そして彼は興味深いことをいった。
サッカーが悲しむ、と。


やっぱ彼は私と同じだ。まだあんな子がいるなんて、嬉しいなあ。


と、暖かな気持ちになったのもつかの間、彼は部員たちから爆笑されたのだ。


その笑い声を聞いた瞬間、気づいたら扉の前に立っていたってわけ。


ほんと我ながら短気すぎて困ったものだよ。
ま、こうなったらもう止まんないさ。


水森「………負け犬?今、俺たちを負け犬って言ったのか?」


突然の暴言に思考が追いついていなかったのか、少しの間があき、水森が喧嘩腰に食らいついく。


「聞こえなかった?あ、ごめんな初対面なのに。でも事実だったからつい口から出ちゃったんだ」


水森「〜〜〜ってめえ!!」


にこにこ笑顔を崩さずにいう真言。明らかに馬鹿にされている水森は怒りを抑えているのか、顔を赤くさせて今にも掴みかかりそうな勢いがあった。


「やだなあ、顔が怖いよ」


ドゥドゥ。と臆した様子もなく、挑発した本人が宥めるような素振りをする。わざと煽ってるのか素なのかどっちなのかは定かではないが…。


水野「ッなにもしらねえ部外者が口出すんじゃねえよ!!」


「知ってるよ?今のサッカー界も、君たち雷門サッカー部の現状も。


────君のカッコ悪かった姿も」


水野「っな!?」


「さっきの試合みてたからなー。仲間のみんなが、キャプテンが、その子が頑張ってるって言うのに、君だけが一目散に試合放棄したんだから、かっこ悪い以外他なんでもないでしょ」

その子、と言いながら松風を指す。驚きの表情でこっちを見てる松風に、真言はニッと笑いかける。


「そんで今も、君はキャプテンに責任全部押し付けて、仲間のことを見捨てて逃げようとしてるんだからな」


水野「っ仕方ねえだろ!!!たかがサッカーで、こんな面倒ごとは真っ平だ!!!だいたい神童たちが負けるのが悪いんだ、俺だって頑張ったのに!!」


「…君ってさあ、さっきから聞いてると人のせいばかりするよな。友達いてるかい?」


どの口からこの程度のサッカー部、なんて言葉が出てきたんだ全く。君みたいなやつにサッカー語られるのほんとムカつくんだよな。


「そんな性格だと嫌われやすそうだよな、その子に見習ったら?勇敢だったしとてもいい子だよ彼は。卑怯な君と違って」


真言はケラケラ笑いながら水野の肩に手を置く。


「これからはひとりぼっちの負け犬くんか、可哀想だね」


水森「〜〜ってめえ好き放題いいやがって!!」


神童「!よせ、水森!!」


ここでついに我慢の限界になったのか水森は真言の胸ぐらを掴んだ。そのまま勢いで壁にぶつかる。神童が抑止の声をかけたが、聞こえてないらしい。


水森「女だからって何もされないと思ってんのかてめえ!」


「いいよ?どうぞご自由に」


水森「調子にのんじゃねえぞ!!!!」


神童「水森!やめるんだ!!!」


激しい剣幕で迫る水森に、彼女は笑顔を絶やさずに答える。それがひと押しになったようだ、水森はそのまま真言に拳を振った。


「…君は至近距離で全力のシュート打たれたことあるか?」


誰もが殴られると思った時。そう呟いた真言は水森の手の内から姿を消すと、一瞬にして彼の後ろへと移動した。


水森「なっ!?」


すかさず彼女は、ずっと手に持っていたサッカーボールを軽く蹴りあげる。


ぽーんっと浮き上がるボール。


「初めての経験させてあげるよ。


────くたばれやああああああ!!!!」



松風・西園「「えええええええええ!?!?!?」」


間に人が一人入るかくらいの至近距離で、真言は水森に向かって怒声とともに勢いよくシュートをした。思わず驚きの声を仲良くあげた松風と西園。あれ、なんかこれさっきもあったような…。


水森「…っ!な…あ…」


顔面すれすれのところで、煙を上げて壁にめり込んでいるボール。回転が収まると、それは静かに隣へと落ちた。力が抜けてへたり込む水森に、真言はとても晴れやかな表情で伸びをした。


「っあー!すっきりした!やっぱ我慢しちゃダメだね、思ったことはすぐに言わないと」


静まり返った中、陽気な彼女の声が響き渡る。「先に手を出してくれて助かったよ」と真言はサッカーボールを拾うと、まだ足が崩れている水森に手を差し伸べた。


「いつまで座り込んでんの?早く立ちなよ」


水森「って、めえ!いい気になんなよ!!!」


「あ…、」


差し出された手を振り払うと、水森はそそくさと外へ出ていった。
取り残された他の部員たちも、急いで彼の後を追っていった。


そんなビビらなくてもいいじゃないか、いうて全力は出てないし。そんなことしたら壁破壊しちゃうかもしれないしな。


だが怒りが納まったおかげか、ここにきてようやく今の状況を思い出した。後ろからびしばしと感じる視線に、これはもう逃げられる状態じゃないと思い、決心して振り返る。


「…朝から2回も騒がせちゃってごめんな?」


その言葉と視線は神童へと向けられている。


今朝のグラウンドの時とは違い、鮮明に見える距離。神童は今度こそしっかりと真言の顔を確認すると、確信した表情になった。そしておもむろに口を開く。


神童「…真言」


「…あぁ、そうだよ。

久しぶり、拓人。それに蘭丸」


その場にいる全員の視線が真言から神童へと移動する。今確かにお互いの名前を…?なんなら霧野まで。彼もまた、神童と同じ表情をして彼女を見ていた。


困惑の雰囲気の中、代表するように三国が問を投げる。


三国「神童たち、知り合いなのか?」


神童「はい…」


説明しようにも、感情が追いついておらず生返事な神童。だって、真言と最後に会ったのはもうずっと…。


神童「お前、一体今まで…」

〜♪


ゆっくりと足を進め、近寄ろうとした刹那。場違いな機械音が部室内に鳴り響いた。


それは真言の携帯の着信音だった。
画面に表示されている発信者の名前を確認すると、彼女は突然切羽詰まった様子になった。


「拓人ちょいまち!ちょっと今無理だわ、話したかったけど無理!また時間作るから、それまで待っててくれないか!なんでも答えるから!ほんとごめんな、それじゃ!」


神童「おい待て!!」


元気そうでよかったよ。
そう息継ぎをせずに一気に伝えると、呼び止める神童の声も聞かず、風のような速さでサッカー棟を出ていった。


突然の嵐に、取り残された雷門イレブンのシリアスな空気はしばらく続いたのだった。


『ダメだよ拓人、君は泣き虫なんだから』


神童(…あの声は、あの優しかった手は、夢じゃなかったのか)


気を失い保健室のベッドにいた時、夢現に聞こえた声と温もり。今朝に真言に似た人と出会った影響で見た夢かと思っていたが…。


本人だった。本当に真言だったんだ。


俺は次に会った時は、絶対に逃がさずに問い詰めると心に決めた。
やっと、やっと会えた、真言。








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