『道標』

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第14話
【自己紹介】






「…はい、そうです。かしこましました。お任せ下さい」


相手が通話を切ったのを確認してからパタン…と携帯の画面を閉じる。あの人からの突然の着信に、慌てて外に飛び出してきた。とりあえず報告をし、監視はこのまま続けろとの命をいただいた。


「あー…初日からほんっと計画通りに行ってないや」


今朝からのことを思い出し、大きくため息をつきながらしゃがみ込む。拓人と蘭丸とも対面しちゃったし。次会ったら拘束される勢いで問い詰められるだろうなあ。着信に慌ててなんでも答えるって咄嗟に言っちゃったよ…しばらくは鉢合わせないようにしよ…。


てかもうここまできたらどうでもよくなってきたぞ。


「泣かれるのだけは勘弁してほしいな…」


泣き顔は苦手なんだよ、男女関係なく。


これからのあいつらの対応をどうするか考え、私はまたもう一度深くため息をついた。


すると、


空野「朝から大波乱だったねー!」


西園「天馬ー、気持ちはわかるけど切り替えよ!明日テストなんだからさあ」


松風「うん…」


「あれ、君」


元気な声と共にサッカー棟から出てきたのは、さっきの子。と、初めて見た2人。
確かサッカー部は入部テストなはず、どうして彼がここに?


疑問に思いながら声をかけに行くと、「あ!お姉さん!」と新入生くんは、子犬のような笑顔で私のところに走ってきた。かわいいなおい。


「どうしてここに?入部テストは受けないのか?」


松風「それが、入部テストは明日に延期されまして…」


「…なるほどな」


まあ今朝からの騒動を考えたら、当然といえば当然か。拓人たちも疲弊してるだろうし、心境的にも入部テストどころではないね。


それにしても心底落ち込んでるなこの子、そんなに早くサッカーやりたかったんだなあ…。


そのサッカーへの熱意に嬉しくなり、思わず頭をくしゃくしゃ撫でる。


「元気だしなよ。明日にはテスト受けられるんだから、今日はしっかりと休むんだ」


松風「は、はい!俺、頑張ります!」


「よし!いい子だ」


えへへ、と笑うこの子が可愛らしくて、ぐーりぐりと頭を撫でくり回す。この子と話してると、こんなに穏やかな気持ちになれるなんて…どこぞのもみ上げ野郎とは大違いだな。


ふと思い浮かんだ改造制服姿を消し去るように軽く頭を横に振る。消えろ消えろ、出てくんな。


「…ところでそこの2人は友達?」


松風「あ、はい!」


こちらの様子を眺めていた隣の2人に視線を送ると、その子は名前を紹介してくれた。ちっさいポケ〇ンみたいな子が西園信助くん、元気そうな女の子が空野葵ちゃんだそうだ。うん、どっちも可愛いな??????


松風「俺は松風天馬です!」


そう名乗ったこの子は、よろしくお願いします!と頭を下げた。すると隣の2人も一緒に声を揃えて挨拶をしてくれた。礼儀のいい子たちだなあ…どっかのもみ上げや(ry


そういえば何回もあってるのに、自己紹介するタイミング逃してたな。


「私は迅波真言。名乗るのが遅れてごめんな、こちらこそよろしく」


松風「あの!迅波さんはサッカーやってるんですか!?」


西園「さっきのシュート凄かったもんね!」


空野「凄くかっこよかったです!」


「そんな褒めても何も出ないよ」


自己紹介が終わるなり、手に持っているサッカーボールを見つめられながら速攻質問される。あまりの勢いに小さく笑ってしまった。


まあ2回もシュート打ったところ見られたしなあ、特に隠すことでもないか。


「そうだよ、サッカーは小さい時からしてるんだ。

あと、呼び方真言でいいよ」


松風「いいんですか!?」


「あぁ、これからまた会うだろうし気軽に呼んでよ。代わりに私も下の名前で呼んでいいかな?」


松風「はい!喜んで、真言さん!」


西園「僕も!僕も信助って呼んでください!」


空野「ずるーい!私も葵って呼んで欲しいです!」


「わ、わかった!わかったから」


私の返事にやったあ!っと喜ぶ信助と葵。なんなのこの子達?心が浄化されるんだけど、セラピストですか?荒んだ私の心を癒してくれる隊ですか?


「よろしく、天馬、信助、葵。

今日はもう帰るんだろ?歩きながら話そうか」


松風「ぜひぜひ!!!」


入部テストがないなら、私も今日の活動は終了だしな。これからの事はその時に考えよ。明日に備えて帰ってゆっくり休むか…。


ほわーんとお花が飛び交ってそうな、ゆるりとした雰囲気に包まれたまま、真言たち4人は一緒に下校していくのだった。










松風「俺の親、仕事の都合で沖縄に居るんだよ。俺だけ秋姉のアパートで部屋借りてるんだ」

西園「ええ、じゃあ天馬一人暮らし!?」


松風「うん」


西園「でもさ、大変じゃない?1人って」


松風「そうでもないよ?なんとかなってる!」


「私も一人暮らしだよ、よかったら今度ご飯食べに来る?」


西園「はいはい!行きたいです!!」


松風「俺も俺も!」


一緒に下校してきた私たちは、葵と別れたあと、天馬のアパートにお邪魔していた。お世辞でも新築とは言えない作りではあるけど…。


西園「わあ!犬飼ってるんだあ!」


松風「サスケっていうんだ」


天馬が自室の扉を開くと、大きめの犬がカーペット上に寝転がっていた。か、かわいい…。信助と一緒に撫でてやると、サスケはお腹を見せて気持ちよさそうにしてくれた。


しばらくこしょこしょして遊んでいると、ふと大切そうに台に置かれているサッカーボールが目に入った。


「天馬、これは?」


松風「あ、それは俺の命の恩人なんです!」


「命の恩人?」


はい。と答えると、天馬は話を続けた。


小さい頃、挟まっていたサスケを助けたときに木材が倒れてきて、潰されそうになったところを飛んできたサッカーボールが救ってくれたという。飛んできた元には、フードを被った少年がこちらを見て佇んでおり、優しく微笑むとどこかへ去ってしまったそうだ。


その時のサッカーボールがこれ。


しかもその中心には、青色のペンで雷のマークが描かれている。まさしくそれは雷門の象徴であるマーク…。


松風「それで俺、雷門でサッカーしたいって思ったんだ」


「…なるほどねえ。それにしても頑張りすぎだと思ったけどな」


無理は禁物だぞー、サッカーバカ君。と、指をさしてからかうと「えへへ…すみません…」と恥ずかしそうに笑った。でも、君みたいなサッカーバカは大好きだよ。


秋「クッキー持ってきたわよー」


松風・西園「「やったあー!!」」


「ありがとうございます」


それからは、天馬の親戚の秋さんが持ってきてくれたクッキーを食べながら、みんなで楽しく雑談した。


こんなに気さくに人と話したのはいつぶりだろう、と。柄にもなく楽しんでしまう私であった。







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