長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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「…」
香穂子は視線をカップに落とした。
蓮の顔が真っすぐ見る事が出来ない。
「香穂子…」
蓮はそんな香穂子に優しく声をかけた。
「俺は…これから君と共に歩いていきたいと思う。…君と…蒼と三人で」
蓮の強い意思を現した声に、香穂子の指がぴくりと動いた。
「君がさっき俺を呼んでいたと聞いて、思った。君も俺を求めていてくれていると…だから…それが自惚れでなければ、頷いてくれないか?」
蓮の言葉一つひとつが、香穂子の中に浸透し、溶け込んでいく。
そして、溜まっていた澱のようなものまで溶けだして…、涙となって体の外に出てきたのだった。
「…香穂子…?」
蓮ははらはらと涙を零す香穂子を見て、慌ててしまった。
彼女を傷付けるような事を言ってしまっただろうか?
不安になって香穂子の側に近づく。
そして、隣に座った。
ほんの僅かの隙間から、香穂子の体温を感じる。
泣いている彼女を抱きしめていいのか。
抱きしめて慰めたい。
だけどその資格が自分にあるのだろうか。
そんな事を迷う蓮に香穂子はぽつりと呟くように言った。
「…いいのかな?」
「え?」
「私、貴方の側にいても…いいのかな?」
「香穂子…」
肩を震わせ、潤む瞳で自分を見つめる香穂子が堪らなくて、蓮は香穂子を抱きしめた。
「俺の隣にいて欲しいのは…君だけだ」
「…れ…ん…」
腕の中から、香穂子の振り絞るような声が聞こえてきた。
それは、久々に聞く、自分を呼ぶ、声。
「香穂子…?」
そっと声をかけると、香穂子は再び蓮の名前を呼んだ。
「蓮…私も…貴方の側にいたい…」
いてもいいんだよね?
香穂子の無言のその言葉に、蓮は強く抱きしめる事で答えた。
「…もう二度と手放したくない。…ずっと君と歩んでいきたい…」
「うん…」
二人はしばらくの間、そのまま抱きしめあっていた。
久々に感じるお互いの熱を味わうかのように。
そして、その体をそっと離した時、蓮は涙で腫れた香穂子の瞼にそっと口づけた。
そして、静かに語りかけた。
「君の力になりたい…だから…君が今までどうしていたのか、知りたいと思う。…だから、話してくれるか?」
「…うん」
蓮のそんな言葉に、香穂子は小さく頷いたのだった。
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