長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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再び理事長から呼び出されたのは、加地が香穂子と会ってから十日程経ってからだった。
蓮と香穂子以外は全員集まっていて、今回は会議室で待機しているように、と言われ、そこで理事長達を待つ事になったのだ。
「今日は全員集合なんだね」
火原が本当に楽しみだという様子で話す。
「…ええ、そうですね」
加地は複雑な気持ちでそれに答えた。
…彼女は本当にここに来るのだろうか。
もしかしたら、あれは自分を安心させる為に嘘をついていたのかもしれない。
不安ばかりが頭を過ぎる。
「加地くん、どうかしたのかい?」
人の感情の機微に聡い柚木がふいに尋ねてきた。
加地は思わずどきりとしてしまう。
「え、な、なんでもないですよ。最近ちょっと仕事が忙しくて疲れたなぁ、なんて…あははは」
香穂子が行動を起こすまで、自分からは何もできないし、してはいけない。
加地はそのために、笑ってごまかそうとした。
「…そう?」
とはいえ、やはりなにかを隠していることは見抜かれているようで、柚木はじっと加地を見たあと、ふっと笑った。
「君も色々と忙しいようだから、大変だね」
「え、ええ、まあ…」
「だけど、体調管理だけは気をつけてね」
柚木はそれ以上つついても何も出てこないと判断したのか、話をそこで閉じてしまった。
…相変わらず侮れない人だな。
そんか事を考えながらほっと息をついた時、会議室のドアが開いた。
「皆集まっているか?」
そう言いながら理事長が入ってきた。
そして、理事長の後ろから…蓮が入ってきたのだった。
「月森くん、お久しぶりーっ!」
火原が嬉しそうに近寄るが、蓮は眉一つ動かさない。
「お久しぶりです、火原先輩」
「相変わらずクールだねー」
火原は愛想のない事を気にせず、からりと笑いながら言った。
だが、加地はそんな蓮の様子を難しい顔をしながら眺めていた。
相変わらず、ではない。
あの時より更に冷たい、いや、他人を拒絶するような空気を身に纏っていた。
それはおそらく、会わなかった今までの間にあったことから、というのは分かる。
…この状態で再会して、果たして大丈夫なのだろうか。
加地は不安になってきた。
「…日野くんはまだのようだな」
揃った面子をみながら、理事長が呟いた。
そして、ちらりと加地に視線を送ってきた。
…本当に来るのだろうね?
そう尋ねているような視線に、加地は曖昧な視線を送りかえした。
加地自身も本当に不安になってきた。
と、その時。
ぱたぱたぱた、と慌てたような足音が聞こえ、そして、勢いよくドアが開かれた。
「遅れてしまって、すいませんっ」
そう言いながら入ってきたのは、…香穂子だった。
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