長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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会議室に入ってすぐに合った視線に、香穂子は息を呑んだ。
だが、何もなかったかのように、すぐに笑顔に戻り、蓮に話しかけた。
「お久しぶり」
「…ああ」
一瞬香穂子を見た後、何もなかったかのように視線を反らした蓮の姿に、香穂子の胸はちくりと痛んだ。
だが、その痛みを我慢し、他のメンバーに笑顔を見せた。
「みなさん、お久しぶりです」
香穂子の挨拶に、皆が笑顔になる。
「日野ちゃんお久しぶりーっ!」
「元気そうだな」
「火原先輩、お久しぶりです。土浦くんこそ…」
そして、土浦の隣に座る冬海を見て、香穂子は目を見張る。
「ふ、冬海ちゃん?」
「香穂先輩…」
感極まったのか、慌てて近寄る香穂子に、冬海は飛び付いた。
「え?何どうしたの、それ?ま、まさかっ」
「…そのまさか、だよ」
愛しの彼女が、いくら香穂子とはいえ、嬉しそうに相手に飛び付いたのが面白くなくて、土浦の声変わり僅かに低くなった。
「わー、やるなぁ、土浦くんも。前からアレだとは思っていたけれど…」
「アレって何だよ?」
「んー?むっつりすけ…」
香穂子が何を言おうとしているのかが分かった土浦は、香穂子の頭をぽかりと殴った。
「いったーいっ!何するのよ?」
「おまえが余計な事言うからだっ!」
「…もう!こんなバイオレンスな旦那に、私の可愛い冬海ちゃんを渡すなんてできないわっ」
「…って何故そうなるっ!」
香穂子と土浦の漫才に、その場にいたメンバーに笑いが起きる…蓮以外は。
「…日野くん、積もる話は後にしてもらえまいか?」
そして、もう一人。
こういうくだけた雰囲気に苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、理事長が言った。
「…すいません」
香穂子は冬海の隣の席に、大人しく座る事にした。
「既に話した通り、今回は君達に創立記念コンサートに出てもらう。今回は学院の文化祭と連動し、大々的に行うのだが、曲数は3から4曲、内容は君達に任せる」
「文化祭と連動…ですか?」
「そうだ。通常の文化祭を土日で行い、月曜にコンサート。そして夜に後夜祭となる。文化祭というより、創立記念祭、となる訳だ」
「そうそう。だから、OBなら、あの後夜祭も参加オッケーって訳」
火原が理事長の後に続くように説明した。
後夜祭と聞き、香穂子はちらりと蓮を見てみた。
だが、彼の表情からは何も読み取る事ができなかった。
「…そういう事だから、大いに楽しんで貰いたい」
理事長はそう言うと、かたりと立ち上がった。
「今日は一日ここを借りている。後は君達に任せた」
そこまで言うと、理事長は会議室を出ていったのだった。
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