長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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「あ、天羽ちゃんっ」
「加地君が、懐かしい面々が来ているから、遊びにおいでっていうから、お言葉に甘えて来ちゃったぁぁぁぁ」
最後のほうが驚きでおかしくなったのは、天羽が言葉を終える前に、香穂子が飛び付いてきたからだ。
「天羽ちゃぁぁん」
ぐすぐすと泣きながら、ぎゅっと抱き着いてきた親友に、天羽は苦笑しながら頭を撫でた。
「はいはい。この子はもー」
「だって、だって…」
香穂子は会えると思っていなかった。
仕方ないとはいえ、自分から音信不通にしておいて、今更会いたいと言っても許してもらえるか。
だから、香穂子はこの街に帰ってきても、天羽に連絡を取る事はなかった。
なのに、天羽から会いにきてくれるなんて。
「うん、うん。あんたが元気でやっているなら、私も安心だよ。まあ、正直いきなりいなくなっちゃったのはショックだったけどね」
「ゴメンね、ゴメンね」
「いいって、いいって」
香穂子の背中をぽんぽんとあやすように叩きながら、天羽は顔をあげた。
そして。
「…羨ましいのは分かるけれど、そんなふうに睨まないでくれる?月森くん」
じっと二人のやり取りを見ていた蓮を、呆れた声で諭したのだった。
「別に睨んでなんていないが…」
「嘘だぁ?さっきから視線が痛いもん」
天羽はからから笑いながら言った。
「高校の時から香穂子をいつだって独占していたんだから、たまにはいいぢゃない?」
「…そういう問題じゃないんだが…」
蓮は久々に頭がくらくらしてきた。
「あー、はいはい、香穂子はすぐに返すから、もう少し貸していておくんなましっ!それとも、女の友情に皹、入れたいの?」
「…いや…」
ああ言えばこう言われ、蓮は困ったようにため息をついた。
…昔から蓮は天羽が苦手だ。
その時、天羽の目に蒼が写った。
「…この子が噂の月森くんの隠し子?」
「…天羽さん、人聞きの悪い事を言わないでくれないか?」
蓮は頭を抱えて抗議したが、天羽はそれを無視して、蒼に近づいた。
「いやー、本当にお父さんによく似てるわねー」
「は、はじめましてっ」
蒼が慌てて天羽に挨拶する。
ペコリと頭を下げるその姿がかわいらしくて、天羽は眦を下げた。
「いやー、この素直な性格。お父さんに似なくて良かったわねー」
「…天羽さん、さっきから何か俺に含むところがあるのか?」
蓮に対する言葉の端々に、刺があるのは、いくら蓮でも分かる。
一体自分が何をしたのか?と考えていると。
「あら?流石の朴念仁でも気付いたか」
と天羽はあっさりと認めたのだ。
「だって月森くんのせいで香穂子がいなくなっちゃったんだもの。親友奪った罪は重くてよー?」
「…それは…」
それを言われてしまうと、蓮は何も言えない。言い訳も出来ない。
そうして言葉を詰まらせていると。
「…半分冗談なんだけどなー。本当、きまじめな人間からかうのは面白いわねー」
と天羽はからからと笑って言ったのだった。
「…天羽さん」
脱力する蓮と、してやったりといった表情の天羽を見て、他のメンバーもおかしそうに笑ったのだった。
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